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2001.12.9 日本反核法律家協会 報告

軍隊のない国コスタリカ訪問報告
西 山 明 行  弁護士

徳 岡 宏 一 朗 弁護士
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◎西 山 明 行 弁護士  報告◎

  2000年9月24日から3日間、弁護士6名と市民10名でコスタリカに参りました。その内4人の弁護士が本日の総会に参加しており、徳岡さんが本日のレジュメを作成してくれました。

1 軍隊のない国

  コスタリカという国の特徴は、第1に軍隊のない国です。憲法12条で恒久的制度としての軍隊を禁止しています。第2に、アメリカの核の傘の支配から離脱しています。第3に自然環境保護の先進国であり、国土の27.6%が国立公園、自然保護区に指定されているばかりでなく、地球規模の自然環境保護が中心になっています。

 フィゲレス元大統領夫人のカレン女史との昼食会の時、「毎月1日に世界から軍隊をなくし平和と地球環境保全のために白いリボンを付けよう」という提案があり、私もやっています。最近弁護士になった女性が「コスタリカの約束」、「コスタリカは軍隊のない国です」と書いた白いリボンをたくさん作ってきてくれました。いまや、いろんな人がやってますね。

2 非武装中立・仲裁外交

  その他の特徴としては、非武装中立の立場から仲裁外交を展開する。最近アメリカと言えば戦争、戦争と言えばアメリカという感じですが、中米などはしょっちゅう内紛があり、アメリカが口出ししたら収まらず、かえって酷くなった。非武装中立のコスタリカが口を出すと収まるという現象があるようです。だから信頼感が違うような感じがします。政府軍と反政府軍の難民を受け入れているというのも大きな特徴です。どっちにもかたよらないで仲裁するんですね。

 1989年にはアリアス大統領が国際紛争を解決したということで、ノーベル平和賞を受賞しています。大統領は1期しかできないというのも特徴です。憲法を破るのは常に政府であり権力者であるということを、国民はよく知っている。

 国連平和大学にも行こうと計画していたのですが、ホテルから往復12時間もかかるということで、断念しました。
 米州機構の人権裁判所は、判決の執行がどうなるかという問題では、必ずしも実効性が完全には確保されていない。それでも、大体人権裁判所に訴えられる被告は国だと思いますが、公になるということは素晴らしい。

3 第四権:常設の選挙管理裁判所

 コスタリカは、「三権分立」ではなく「四権分立」です。選挙管理裁判所があり、ここで選挙の公正ということを徹底してやるということです。定数も2年ごとに行われる選挙区の人口調査によって是正される。

 国会議員の任期は4年。連続再選は禁止されているが、いったん休んでまた出馬することは禁止されていないようです。大統領は連続再選禁止どころか、1回しかできない制度になっているようです。

 小学校を訪問して面白かったのは、選挙近くなると模擬投票をやるということ。模擬投票の結果がちょうどアメリカの大統領選の予備選挙のように反映する。小学校でも政党について勉強しているし、教育基本法には批判的精神を養えというのが入っているから、学校の中でも、政党でもなんでも批判する。子どもの時から政府の行動とかよく勉強しているんですね。

 訪ねた学校は貧困層の居住区にあり、スラム街の子どもたちも来ていたが、明るく生き生きしています。私は日本の学校の授業参観などをしているが、日本の学校は暗い。「子どもを見ればその国の50年が予測できる」というが、コスタリカの50年というのは凄いのではないか。日本の50年は墓場ですよ。

徳岡宏一朗理事の補足

 難民についてですが、コスタリカの人口の三分の一がニカラグアからの難民です。難民にも教育が保障されており、訪ねた学校にはスラム街から通っているニカラグア難民子どもたちもいます。

◎ 徳 岡 宏 一 朗 弁護士 報告 ◎

 日本反核法律家協会は、憲法9条が危機的な状況にある日本と反対に、内戦の絶え間ない中南米で軍隊を廃止して半世紀、非武装・中立政策を堅持している模範的な平和国家、そして自然保護の先進国コスタリカを見聞しに行って見ようと、協会の会員と市民に呼びかけました。

 これに応じた混成訪問団(弁護士6名、市民10名)は、2000年9月24日から3日間コスタリカを訪問しました。

 滞在中、自然保護地区モンテベルデ雨霧林の訪問、軍隊をなくしたホセ・フィゲレス元大統領の夫人カレン女史の招待夕食会、ヴァルガス国際反核法律家協会副会長(国際法学者)のレクチャー、平和教育現場の小学校訪問、最後は訪問団側のカレン女史、ヴァルガス氏への返礼招待晩餐会という濃密なスケジュールを精力的に消化したのです。

 コスタリカの「軍備を廃止しても外的の侵略を受けない方法」として考えた政策は、いくつかに分かれます。

1 まず、積極的方法としては、積極的な非武装・中立・仲裁外交を展開することです。

 具体的には、たとえば、他の国において軍事的紛争が発生したときは、コスタリカの大統領や大使が紛争当事国、あるいは内戦の政府軍と反政府軍の双方に対して、積極的に仲裁役を買って出るという仲裁外交をしていること、また他国の内戦による避難民や亡命者に対しては「コスタリカ領土は政治的な迫害を受けたすべての者に対する政治的避難所です」という憲法31条の考え方によって、迫害を受けた者や難民を受け入れることなど、平和に向けた積極的活動をし、そのために近隣諸国民の信頼を得て、紛争をなくすための外交姿勢に徹したことです。 
 このようにコスタリカの一貫した積極的平和外交は、中米地域の平和に貢献してきたのです。

 モンヘ大統領の後を継いだアリアス大統領は1989年に中米の平和への貢献によってノーベル平和賞を受賞しています。また、国連平和大学や米州機構の人権裁判所などを国内に誘致し、国際的な平和機関の活動に貢献しており、私たちも米州人権裁判所を訪問しました。

こうしてコスタリカは周辺諸国からは平和国家としての信頼を獲得し、自国の政治努力によって、他国から軍事侵攻を受ける危険を積極的に排除してきました。軍隊のない国が地域の国際社会の平和の実現に貢献し、同時に自国の安全をも確保するという成果を上げることが可能であることをコスタリカは証明したのです。

2 次に、軍事侵攻を未然に防止する手段として、コスタリカは「民主主義国家を建設すること」という方法をとりました。

 そのために、第一に、国の政治の民主的制度化を徹底すること、第二に、争いを対等な対話で解決し暴力で解決しない教育(非武装の平和教育)を子どものときから徹底すること。この二つを完成することによって、コスタリカという国は他国に対して軍事侵略を絶対にしない、そして侵略されない国を造り上げています。

 まず彼らは、国政の民主化の第一は清潔な選挙制度の確立が先決だと考えて、その方法として、立法、行政、司法の三権から独立した第四権の常設の「選挙管理裁判所」という国家機関を創設し、これに選挙の全てを管理させることにしています。

 私たちも国会を訪問しこの説明を受けました。

 この選挙管理裁判所は、すべての干渉から独立して民意を反映した清潔な選挙を実施する権限と責任を持ち、選挙の結果の発表も選挙管理裁判所が行うのです。

 また、従来の憲法に規定されていた大統領の再選禁止規定は厳格に適用されることになり、国会議員(定員57名の1院制)の定数も2年毎に行われる各選挙区の人口調査により是正され、国会議員は2期連続の再選は禁止されています。選挙運動は、他の候補者や政党への誹謗中傷の禁止などの制限を除けは、選挙運動の期間、文書の配布、戸別訪問などについての制限はないのです。

 さらに選挙は国民的な重要な行事ですので、小学校の児童も模擬投票を行い、その投票結果も発表する。国民のすべてが清潔な選挙をするようになるには、子どものときから公正な選挙の訓練をするというのです。

 選挙改革と並行して最も重要な仕事は、学校での非武装平和教育です。軍隊の廃止によって余った軍事予算(国家予算の30%)を教育費と社会保障費に充当したのです。この結果、識字率は97%。中南米諸国で最も高い識字率となり、国民所得も最高となっています。

 私たちは小学校教育の現場を調査することにしました。私たちの訪問した学校はサンホセの貧困層の居住する地域の小学校でした。

 児童教育の目標は、事実を批判的に見る子、想像力のある子、他人に優しい子、平和を求める子に育てるなどですと、案内の先生から説明されました。各教室の授業を見学して回ったが、いずれも、子どもらに考えさせる工夫をした授業をしていました。

 私たちと同行した被爆者の吉元さんの話しに熱心に聞き入り、鋭い質問を投げかける生徒たちの姿から、私たちは平和国家の建設こそ21世紀を生き残る唯一の方法だと感じたのでした。

詳しくは・・・・

・『反核法律家』39号 池田眞規報告、

・『コスタリカ訪問記』日本反核法律家協会/日本国際法律家協会発行 2001年4月21日 参照