核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
  意見 >>> 日本反核法律家協会(JALANA)に関する資料
2016年11月1日
外務大臣 岸田文雄  殿
核兵器の廃絶を求める日本法律家協会(日本反核法律家協会)
会長(兼国際反核法律家協会共同代表)
弁護士 佐々木猛也

要 望 書

 日本反核法律家協会は、1994年8月に創立された核兵器の廃絶と被爆者の援護を目的とする法律家の組織です(賛助会員の市民も含む)。国際反核法律家協会(IALANA)のメンバ―でもあります。
 私たちは、国連総会第1委員会の「核兵器を禁止し、完全廃棄に至る法的拘束力のある文書を取り決めるための国連会議を、2017年中に開催する。」とした項目を含む「核兵器廃絶のための多国間交渉の前進」(Taking forward multilateral nuclear disarmament negotiations)決議(以下、「核兵器禁止条約決議」という。)の採択を受け、貴職に対して、次のとおり要望します。
第1 要望の趣旨
1.国連総会において、「核兵器禁止条約決議」に賛成すること。
2.「核兵器禁止条約」を交渉する会議に参加し、「核兵器禁止条約」の速やかな実現に貢献すること。
3.核兵器の完全廃絶の速やかな実現のために、指導的役割を果たすこと。
4.唯一の戦争尾被爆国として被爆の実相を伝えることに意を用いること
5.被爆者団体をはじめとする市民社会の要望を真摯に受け止めること。
第2 要望の理由
1.10月27日、国連総会第1委員会において、「核兵器禁止条約決議」が、賛成123カ国、反対38カ国、棄権16カ国で採択されました。私たちは、この決議の採択は、「核兵器のない世界」を実現する上で、重要な一歩となると評価しています。そして、この決議が国連総会で採択され、国連会議が、2017年3月27日から31日および6月15日から7月7日の間、ニューヨークで開催され、包括的かつ実質的な議論が展開されることを重く受け止めています。そして、私たちも、決議の呼びかけに応じて、市民社会の一員として、国連会議への参加と貢献をしたいと考えています。

2.ところで、日本政府は、この「核兵器禁止条約決議」に反対しました。その理由は、「核兵器の廃絶は非核兵器国と核兵器国が協力しなければ具体的結果を作り上げることはできない。」とされていますが、その背景には、米国の「核の傘」がなくなれば、わが国の安全保障上問題であるとの認識があることは明らかです。日本政府は、核兵器の安全保障上の役割を優先して、「核兵器禁止条約」の交渉開始に反対したのです。私たちは、この態度に強い怒りを込めて抗議するものです。その理由は、私たちは、核兵器という非人道的な結末をもたらすことになる「悪魔の兵器」(被爆者の言葉)に依存し、最終的には使うことを前提とする安全保障政策(核抑止論)に反対だからです。

3.更に、これまで、日本政府は、核兵器国と非核兵器国の「橋渡し役」となるなどとしていましたが、今回この決議に反対したことは核兵器国の立場になると宣言したことを意味しています。唯一の戦争被爆国の政府が「橋渡し役」の立場を投げ捨て、核兵器国とともに核兵器禁止条約の交渉開始に反対したことは、恥ずべき転向と言わざるをえません。

4.そもそも、核軍縮の効果的措置につき誠実に交渉することはNPT6条によって日本を含むすべての締約国の義務となっているところです。また、1996年のICJ勧告的意見によれば、この義務は「交渉を完結させる」という核廃絶の結果を達成する義務を含んでいます。日本が、核兵器禁止決議に賛成し、核廃絶に向けて積極的に交渉参加することは、この義務の要請でもあるのです。そして、核兵器国が長年にわたり、NPT条約6条の核軍縮完結義務を懈怠している状況を考えれば、核兵器禁止条約は、それを促進する役割を果たすものです。

5.日本政府が「核兵器禁止条約決議」に反対することは、日本政府が国連総会で賛成した「核兵器の人道上の結末に関する共同声明」にある「核兵器が再び、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっている。」とする文言や「核軍縮不拡散に関するG7外相宣言」にある「われわれは、核兵器は二度と使われてはならないという広島及び長崎の人々の心からの強い願いを共にしている。」とのフレーズに背馳するだけではなく、「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」という日本政府提案の決議を色褪せたものにしてしまうでしょう。

6.私たちは、貴職に対し、これまでの政府の言明にも反するような態度を早急に改め、唯一の被爆国の政府にふさわしい「核兵器のない世界」に向けてのイニシアチブをとるよう要望するものです。

7.具体的には、来る総会で、第1委員会での反対の態度を改め、「核兵器禁止条約決議」に賛成すること、設置される国連会議に参加し、被爆の実相を伝え、核兵器を禁止し、完全廃絶に至る法的拘束力のある文書を、可能な限り早急に締結するために最善を尽くすこと、などを要望するものです。

8.日本政府が、総会において、「核兵器禁止条約決議」に反対し、その反対の意思を持続したまま国連会議に参加し、核兵器国の代弁者として振る舞い、「核兵器禁止条約」の実現を妨害するような行動をとるとすれば、唯一の戦争被爆国の政府として言語道断というにとどまらず、人類史に拭い難い汚点として刻まれることになるでしょう。そのような事態が決して起きることのないよう、被爆地広島選出の外務大臣である貴職の良心に期待する次第です。
以上