核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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「核兵器禁止条約」交渉の開始と今後の展望

日本反核法律家協会事務局長  大久保賢一
はじめに
 3月27日から31日までの間、国連で、核兵器の禁止と廃絶のための法的枠組み(「核兵器禁止条約」)に係る多国間交渉が行われた。115カ国の政府(国連加盟国は193カ国)と220を超える市民社会(反核NGOs)が参加した。
 日本政府は参加していないし、政党として参加し意見を述べたのは共産党だけである。被爆者団体協議会(被団協)や、原水爆禁止協議会(原水協)などの反核平和団体も参加し発言している。日弁連からは新倉修・森一恵両弁護士が参加している。ちなみに二人は、日本反核法律家協会の会員である。
 米国大使は「この条約で北朝鮮が核を放棄するわけがない。こんなことに時間を使うのは無駄だ。」と議場の外でスピーチした。この条約がいかに彼らに大きな影響を与えることになるのかを物語っているといえよう。

なぜ、「核兵器禁止条約」に反対するのか
 核兵器国が、「核兵器禁止条約」に反対する理由は、核兵器使用の手を縛られるからである。核兵器は自国や同盟国の安全保障のために必要不可欠としている彼らからすれば、その使用が違法とされることは、国策の根幹を揺るがされることなのである。
 日本政府は、北朝鮮を例に挙げて、この条約ができれば、日本の安全が脅かされるなどとしている。米国や日本は、北朝鮮に核を放棄しろと迫りながら、自分たちは核に依存しているのである。彼らは、その没論理的で身勝手な態度に恥らいを覚えないのであろうか。

「核兵器禁止条約」に求められること
 ところで、「核兵器のない世界」は、核兵器国がその気にならなければ実現しない。「核兵器禁止条約」は、当面、非核兵器国だけで構成されたとしても、いずれは核兵器国の参加が不可欠なのである。また、「核兵器禁止条約」は、現在の国際法に何かをプラスするものでなければならない。そうでなければ、苦労して条約化する意味がないからである。毒にも薬にもならないような条約であれば、核兵器国は入りやすいが、「核兵器のない世界」に近づくことはできない。「核兵器のない世界」に近づきつつ、且つ、核兵器国が入ることになる仕組みを持つ条約の制定が求められているのである。

政治的意思を条約へ
 これまで、核兵器をなくそうという政治的意思は繰り返し表明されてきた。最近では、2000年のNPT再検討会議で「核兵器の完全廃絶を達成するという明確な約束」が、2010年の再検討会議で「核兵器のない世界の達成と維持のために必要な枠組みの確立」が、それぞれ、核兵器国も含む全会一致で採択されている。にもかかわらず、国際条約とはなっていないのである。
 その原因は、核兵器国の本音が核兵器に依存して国家安全保障を確保するという「核抑止論」にあるからである。けれども、彼らも、建前としては、「核兵器のない世界」をいわざるをえないのである(最近、怪しくなってはいるが)。なぜなら、彼らも、核兵器の使用は壊滅的人道上の結末(非人道的結末)をもたらすことを否定できないからである。彼らが否定できない「非人道的結末」を梃子として、核兵器を条約法上の違法とすることが求められているのである。

条約の根幹に据えられる核兵器の違法性
 ところで、1963年、東京地裁は、原爆投下は当時の国際人道法規範に照らして違法だとしているし、1996年、国際司法裁判所は、核兵器の使用や使用の威嚇は、一般的に国際法に違反するとしている。この背景には、「文民および戦闘員は、条約がその対象としていない場合においても、確立された慣習、人道の諸原則および公共の良心に由来する国際法の諸原則に基づく保護のもとに置かれる」という原則(マルテンス条項)が存在している。
 核兵器の違法性は既に確認されているのである。もし、この条約によって、はじめて核兵器が違法とされるというのであれば、条約に加盟しないことにより、その違法性の拘束から免れることが可能となるであろう。
 よって、条約の根幹には、核兵器の違法性の確認が据えられなければならない。核兵器は、この条約によって違法とされるのではなく、既に国際人道法に違反するとされてきていたことを確認しなければならないのである。

その他の条約上の要素
 条約において、核兵器の使用はもとより、その使用の威嚇、配備、移転、一時通過なども禁止の対象とされなければならない。核兵器の保有や実験が禁止されることは当然であるが、核不拡散条約や核実験禁止条約あるいは非核兵器地帯条約などとの整合性が求められるであろう。
 更に、締約国に、(1)締約国でない国にこの条約への参加を促すこと、(ii)締約国でない国に核兵器の保有、使用または使用の威嚇を抑制するよう働きかけること、(iii)締約国でない国に核兵器の使用または使用の威嚇を要請しないことなどの条項も必要となるであろう。

条約の案文は示される。
 ホワイト議長は、6月1日までに条約案を提示し、6月15日から7月7日の会期で採択できるとしている。私たちは、条約案の検討を行い、速やかな条約実現のための努力を求められることになる。
 しかしながら、それは最初の一歩であって、それを本当に有効な条約にするためには、より一層の力強い努力が必要となるであろう。核兵器国の意思の転換を実現しなければならないのである。けれども、これらの大国も、基本的には、民衆の支持をその正統性の基礎としている。核保有国の民衆の意思を転換することによって、その政策転換は可能なのである。
 「核兵器禁止条約」の制定は、核兵器国の民衆に働きかけるうえで、有効な手立てとなるであろう。「核兵器禁止条約」を国際社会に浸透させることと、ヒバクシャ国際署名を成功させることは、「核兵器のない世界」実現のための王道となるであろう。
(2017年4月2日記)