核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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アメリカ・トランプ政権の「核態勢見直し」(Nuclear Posture Review)へ抗議する

2018年3月22日
日本反核法律家協会
会長 佐々木猛也

 2018年2月2日、アメリカ・トランプ政権は、新核戦略指針「核態勢見直し」(NPR ,Nuclear Posture Review)を公表した。
 今回の「核態勢見直し」(NPR)は、「前回の公表時と比べ、国際安全保障環境は大幅に悪化、世界はより危険になった」と指摘し、「ロシアや中国に加えて北朝鮮やイランの核保有の野心や、核を使ったテロは継続的な脅威だ」として「近代的、柔軟かつ弾力性のある核能力」の必要性を訴え、爆発力の小さい小型核など2種類の新型核兵器の導入、海上船舶配備型の核巡航ミサイルの再開発への着手、核弾頭の運搬手段である「3本柱」(大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機)の強化と更新、非核兵器による攻撃に対する核兵器による報復の可能性を打ち出すことで、核兵器の選択肢を広げたり使用条件を緩和したりして、核抑止力の強化を図る内容となっている。

 今回の「核態勢見直し」(NPR)の公表を受け、日本政府は2月3日、「核態勢見直し」(NPR)を「高く評価」し、核抑止力を含めた日米同盟の抑止力強化を目指すとした談話を発表した。

 今回の「核態勢見直し」(NPR)は、「核兵器のない世界」の実現を求める被爆者をはじめとする市民社会の願いや国際的動向に逆行し、人類を破滅に導きかねない危険な指針であり、私たちは「核態勢見直し」(NPR)に対し、強く抗議する。
 すなわち、2017年7月7日、国連の核兵器の全面廃絶のために核兵器を禁止する条約交渉会議(United Nations Conference to Negotiate a Legally Binding Instrument to Prohibit Nuclear Weapons, Leading Toward Their Total Elimination)は、「核兵器禁止条約」(TPNW,Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)を122カ国の賛成で採択した。122カ国の賛成は、国連加盟国193カ国の約60パーセントにあたる多数の賛成である。「核兵器禁止条約」の交渉と採択にあたっては、200を超える国際NGOも会議に参加し、核兵器廃絶を訴えた。
 さらに被爆の実相や体験を発表して核兵器の全面廃絶を訴えてきた被爆者をはじめとする市民社会の多大な貢献を称え、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN,International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)にノーベル平和賞が授与された。
 「核兵器のない世界」の実現を求めることは、被爆者をはじめとする市民社会の願いであり国際的動向である。ところが今回の「核態勢見直し」(NPR)は、「核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として、アメリカには行動する道義的責任がある」として「核兵器のない世界」の実現を目指したオバマ前政権の方針を転換し、核兵器の選択肢を広げたり、使用条件を緩和したりして、核抑止力の強化を図るものである。これは「核兵器禁止条約」(TPNW)の採択で使用の威嚇も含め違法化に踏み切った市民社会の願いや国際的動向に逆行し、人類を破滅に導きかねない危険な指針である。

 また、日本政府が今回の「核態勢見直し」(NPR)に同調したことも、「核兵器のない世界」の実現を求める被爆者をはじめとする市民社会の願いや国際的動向に逆行する行為であり、私たちは日本政府に対しても、強く抗議する。
 すなわち、日本政府は、これまで唯一の戦争被爆国として核兵器の非人道性を主張し、「被爆者に寄り添う」との姿勢をとってきたにもかかわらず、今回の「核態勢見直し」(NPR)に対して「高く評価」するとして、いち早く同調した。本来日本政府は、唯一の戦争被爆国として、被爆の実相や体験を発表するなどして、核兵器の全面的廃絶や「核兵器のない世界」の実現に向けて積極的な役割を果たすことが求められる。日本政府が、核抑止力の強化を図る「核態勢見直し」(NPR)に同調したことは、「核兵器のない世界」の実現を求める被爆者をはじめとする市民社会の願いや国際的動向に逆行する行為であるとともに、「被爆者に寄り添う」との姿勢を放棄するに等しく、唯一の戦争被爆国として許されない対応である。

 世界に核兵器が存在する限り、真の世界平和と安全は図れない。核兵器は人類を破滅に導きかねない非人道的な兵器であるだけでなく、武力紛争に適用される国際法の原則と規定に反するものであるから、核兵器を使用するという威嚇によって、安全保障を図るという核抑止論は成り立たない。むしろ真の世界平和と安全を目指すのであれば、「核兵器のない世界」の実現を求める被爆者をはじめとする市民社会の願いや国際的動向を積極的に推進し、全世界が核兵器の全面的廃絶に取り組むべきであって、核抑止力の強化によるべきではない。

 以上より私たちは、核抑止力の強化を図るアメリカ・トランプ政権の「核態勢見直し」(NPR)と「核態勢見直し」(NPR)に対する日本政府の同調に強く抗議し、アメリカ政府に対しては「核態勢見直し」(NPR)の早期撤回を、日本政府に対しては、唯一の戦争被爆国として早期撤回への働きかけを行うことを強く要求する。
 あわせて、私たちは、唯一の戦争被爆国である日本政府、アメリカを含めた全ての核保有国、及び核依存国に対し、使用の威嚇も含め違法化に踏み切った「核兵器禁止条約」(TPNW)の趣旨を真摯に受け止め、条約に加入することを強く要求する。