核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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米朝首脳会談・声明を歓迎する

日本反核法律家協会

 6月12日、シンガポールで、ドナルド・トランプ米国大統領と金正恩朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)国務委員長が会談を行い、共同声明に署名した。
 当協会は、この声明を歓迎するとともに、「核兵器のない世界」に向けて、引き続き努力することを決意する。

共同声明の内容
 トランプ大統領と金委員長は、新たな米朝関係の構築と朝鮮半島の平和体制の建設について意見交換を行い、トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与え、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化を再確認した。二人は、新たな米朝関係の構築が朝鮮半島、ひいては世界の平和と繁栄につながると確信し、相互の信頼醸成が朝鮮半島の非核化を推進するとの認識を示している。
 その上で、以下の4項目を約束している。
(1) 米国と北朝鮮は、両国民の平和および繁栄への願いに応じ、新たな米朝関係の樹立を約束する。
(2) 米国と北朝鮮は、朝鮮半島に持続的かつ安定した平和体制を築くため共に取り組む。
(3) 北朝鮮は、2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組むことを約束する。
(4) 米国と北朝鮮は、すでに身元が特定された遺骨の迅速な送還を含む、戦争捕虜および行方不明兵の遺骨の収容を約束する。
 二人は、米朝首脳会談は画期的な出来事であり、両国の何十年にも及ぶ緊張と対立を克服し、新しい未来を拓くためのものであるとして、共同声明の条項を完全かつ迅速に実行に移すことを約束したのである。

私たちはこの声明高く評価する
 私たちは、この共同声明を高く評価する。「ちびのロケットマン」、「老いぼれ」と罵りあい、核兵器の応酬までちらつかせていた二人が、対話のテーブルにつき「新たな米朝関係の構築」と「朝鮮半島の完全な非核化」を「完全かつ迅速に実行に移すことを約束」したのである。その具体化のために、工夫と時間が必要なことは避けられないとしても、共同声明に盛り込まれた目標は評価されるべきである。新たな米朝関係の構築は、最後の冷戦状態を解消し、世界の平和と繁栄につながるからである。そして、朝鮮半島の非核化は、北東アジアの非核地帯化や「核兵器のない世界」の一歩となりうるからである。

朝鮮戦争再燃の回避
 私たちは、最も避けなければならない事態は、朝鮮戦争の再燃であると考えていた。朝鮮半島の人々が殺戮と破壊の坩堝に投げ込まれることや、北朝鮮による日本への攻撃、日本国内における在日朝鮮人に対するジェノサイドなどを恐れていたからである。
 完全で検証可能で不可逆的な核廃絶(CVID)、拉致被害者の帰国、中短距離ミサイルの廃絶なども解決しなければならないテーマではあるけれど、最優先は朝鮮戦争の再燃阻止と完全終結であると考えていたのである。トランプ大統領や金委員長のキャラクターや、声明に具体性がないことなどを理由として、この共同声明の意義を過小評価しようとする意見も散見されるけれど、朝鮮半島における武力衝突の危険を遠ざけたという意義は、何にもまして評価されるべきである。

「合意は拘束する」(Pacta sunt servanda)
 そもそも、米国と北朝鮮を代表する二人が共同声明に署名したということは、両国の意思が合致したことを意味している。トランプ大統領と金委員長が、私的な取引をしたということではなく、国家間の政治的合意が成立しているのである。そして、「合意は拘束する」という法格言は、国際法の分野でも通用する原理原則であり、重要な政治宣言である共同声明を理解するにあたって留意しなければならない視点である。
 トランプ大統領は「北朝鮮の安全の保証」を、金委員長は「朝鮮半島の非核化」を約束した。それぞれ、相手方に対してカードを付与し合ったのである。このことは、「両国の何十年にも及ぶ緊張と対立を克服し、新しい未来を拓く」ための大きな礎となるであろう。この合意に冷水を浴びせなければならない理由はない。

トランプ大統領の約束
 トランプ大統領は、北朝鮮の安全を保証するとしている。一見、重大な譲歩をしているようではあるが、極めて当たり前のことを約束しているだけである。米国に北朝鮮を攻撃できる根拠は、もはや存在しなくなった。国際連合に加盟するすべての国の主権は平等であるし(国連憲章2条1項)、すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない(同2条3項)とされているところである。そして、北朝鮮が米国に武力攻撃を仕掛けたという事実もないので、米国の自衛権も問題にならないのである。米国は、自分が気に入らない国家に対して、武力の行使を行い、政権を転覆してきた。そのような行為はもともと許されていないのである。禁止されていることをしないと約束するのは当たり前のことであって、大きな譲歩をしたということではない。
 トランプ大統領の約束した「安定した平和体制」の具体的中身について、米朝の理解が合致しているのかも不明であるし、また休戦協定中の朝鮮戦争は、国連安保理決議があるので、アメリカの一方的な「安全保証」だけでは終結せず、国連軍の解散に至って完全終結となる。しかしながら共同声明第3項では北朝鮮の側が「板門店宣言を再確認」することを約しているのであるから、私たちは、今回のトランプ大統領の約束が、朝鮮戦争の完全終結につながることを強く期待する。

金委員長の約束
 金委員長は、朝鮮半島の完全な非核化を約束した。北朝鮮の言うことなど信用できないという言説もあるけれど、金委員長も「合意は拘束する」という法原則から免れることはできない。元々、北朝鮮が核兵器を開発してきた理由は、核兵器を持っていないと米国によって政権転覆されてしまうという恐怖からである。その米国が「安全の保証」をするのであれば、核兵器保有の動機は霧消することになる。北朝鮮の核保有の動機を解消することができるのは、米国だけである。他方、米国も、北朝鮮の大陸間弾道ミサイルによる反撃を恐れなくて済むようになった。「大きな取引」が成立したのである。そして、私たちも、米朝間の核戦争の悲劇から解放されるという成果を得ているのである。

どのように非核化するか
 「朝鮮半島の非核化」は、私たちのめざす「核兵器のない世界」の実現にとって、重要な一歩となる。現在、核不拡散条約(NPT)が存在している。米国は加盟国である。北朝鮮も加盟していたが、現在は脱退している。また、核兵器禁止条約(TPNW)も採択されている。両国ともこの条約には参加していないが「核兵器のない世界」に向けての法的枠組みは存在しているのである。
 北朝鮮が核不拡散条約に復帰し、核兵器禁止条約に加盟し、その4条に規定されている手続きを履践すれば、北朝鮮の核兵器問題は解決するのである。具体的には、北朝鮮が核兵器を運用上の地位から撤去し、検証を伴いかつ不可逆的な除去を行うための計画に従って、核兵器を廃棄する手続きを進めることである。
 ただし、それだけでは米国を含む他の核兵器国の核兵器は残ったままである。世界には1万4450発の核弾頭があり、うち北朝鮮は10発から20発、米国は6450発と推計されている(長崎大学核兵器廃絶センター)。
 「核兵器のない世界」の実現のためには、北朝鮮の核だけを問題にすれば事足りるとうことではない。他の核兵器国も、全面的な核軍縮に向けた交渉を開始し、それを完結させなければならないのである。そのためには、「俺は持つおまえは捨てろ核兵器」という身勝手この上ない論理と、核兵器に依存しての国家安全保障政策(核抑止論)を乗り越えなければならない。
 当協会は、ヒロシマ・ナガサキ・ビキニの被爆体験を持つ日本の法律家と市民の組織として、「核兵器のない世界」をめざす他の市民社会と共同しながら、核兵器保有国や核兵器依存国の政治姿勢を転換するための努力を継続することを決意する。

2018年6月28日
「核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会」理事会