核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会
 
 
 
 
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特集:「核兵器の非人道的結末」に関する国際会議(オスロ会議)
オスロ会議に向けての提言集

はじめに

日本反核法律家協会事務局長
弁護士  大久保 賢一

 この提言集は、核兵器の非人道性を論証し、核兵器国の核依存政策を批判し、核兵器条約の早期実現を展望するために作成されている。執筆者は、核兵器の廃絶を目指す日本法律家協会(日本反核法律家協会)に参加する法律家(研究者・弁護士)である。

 ノルウェ―政府提唱によるオスロ会議は、核兵器使用の非人道性がテーマとされている。
 日本反核法律家協会は、この会議の成功に貢献したいと考えている。
 そのために、広島・長崎への原爆投下が民衆にもたらした非人道的被害を報告することとしたい。
 合わせて、各国のNGOと協力して、核兵器の非人道性の確認をベースにし、核兵器国や核兵器依存国の核兵器容認論を批判し、核兵器の違法化と核兵器条約の早期実現への展望を切り開くためにも尽力したいと考えている。

 核兵器の非人道性を多方面から確認することは、核兵器の違法性を確立するうえで、基礎的な作業である。とりわけ、現実に使用された核兵器が、民衆に何をもたらしたかを検証し、それを記憶することは、核兵器問題を考える上での出発点であろう。
 これは、将来起きるかもしれない核戦争のシミュレーションではないのである。歴史的事実なのである。私たちが歴史から学ぶことをやめた時、私たちは核の淵に飲み込まれるであろう。

 私たちは、被爆者の証言に耳を傾け、原爆被害の実態を想像し、恐れ戦かなければならない。核兵器と人類は共存できないことを確認しなければならない。

 核兵器国と核兵器依存国は、自国の安全保障のために、核兵器は必要かつ有用なものであるとしている。他方では、非核兵器国の核兵器開発は許さないとしている。
 この論理では、国連憲章が予定する各国の平等や同権は無視され、核兵器拡散に歯止めはかからず、核軍縮は進まないことになる。
 NPT体制は、核兵器の保有をめぐって根本的な矛盾を内包している。核兵器国が、誠実に核軍縮を進めない限り、この体制は破綻するかもしれないのである。もしそうなれば、核兵器の拡散と使用の危険性は、現在よりも格段に高くなるであろう。
 私たちが、核兵器国と日本も含む核兵器依存国の論理を突破しなければならない理由はここにある。
 核兵器に依存して自国の安全を確保することは、国際人道法上許されないという合意を形成しなければならないのである。
 武力紛争に勝利するという軍事的合理性に優先する人道という価値が存在することの再確認である。
 そして、その合意を、国際人道法規範として通用させる必要性を確認し、核兵器条約の締結へと向かわなければならないのである。

 核兵器は廃絶されていないが、核兵器の違法化のための努力も続けられている。

 1963年、日本の裁判所(東京地方裁判所)は、米軍の原爆投下は、国際法上違法であるとの判決を出している。
 1996年、国際司法裁判所は、核兵器の使用や威嚇は、一般的に国際法に違反すると勧告している。
 1997年と2007年、国連では、核兵器の開発、実験、保有、移転、使用、威嚇などを全面的に禁止する「モデル核兵器条約」が討議文書とされている。
 2010年のNPT再検討会議合意文書は、核兵器使用の非人道的結果への関心と国際人道を含む国際法の順守を呼び掛けている。
 国際社会は、核兵器の使用を明文で禁止する条約を作り上げていないが、核兵器は無法ものとされつつあることは間違いないのである。この動きを速め、強めなければならない。

 この提言集は、以上の問題関心の下に作成されている。

 各報告のテーマを、掲載順に紹介する。

 第1報告は、佐々木猛也弁護士による日本反核法律家協会の自己紹介である。佐々木弁護士は、広島で被爆を体験している、日本反核法律家協会の現在の会長である。
 核兵器使用の非人道性、核兵器違法化の努力に加えて、福島原発事故についての日本反核法律家協会の見解に触れている。

 第2報告は、池田眞規弁護士による被爆者への理解を求める論考である。被爆の実態についての記憶を「人類の遺産」として承継しない限り、人類は核兵器によって滅亡するであろうと警告している。池田弁護士は、日本反核法律家協会の設立者の一人であり、被爆者との交流は永く深いものがある。

 第3報告は、内藤雅義弁護士による「原爆症認定訴訟」についての考察である。日本には、「被爆者援護法」があり、原爆放射線の影響により医療を要する状態にあると認められる人に一定の手当の支給がなされる。しかしながら、その法律の運用は、被爆の実態と大きく乖離したものであった。日本政府は、一方で放射線の影響を疫学的に初期放射線により認められる範囲に限定するとともにその他の要因との複合的影響を無視ないし軽視しているのである。被爆者は、自らの体験を苦痛と差別への不安を乗り越えて語ることによって、原爆被害の実体に即した補償を国に求めて立ち上がり、大きな成果を上げた。そのことについての担当弁護士の報告である。

 第4報告は、日本の裁判所が、米軍の広島・長崎への原爆投下を、国際法に違反すると判断した「原爆裁判」についての、国際法研究者である小倉康久博士の論考である。この「下田事件」は、裁判所という公的機関が、原爆投下を国際法違反としているただ一つのケースである。核兵器と人道法の関係を考える上で、不可欠の事例である。

 第5報告は、国際法研究者である山田寿則日本反核法律家協会理事・国際反核法律家協会の理事の、被爆者の賠償請求権に関する論考である。被爆者に核兵器使用者に対する損害賠償請求権を認めるための法理論が検討されている。核兵器を使用するものが、被爆者に対する賠償義務を負うことは、核兵器のない世界の構築に寄与するとされている。

 第6報告は、日本反核法律家協会事務局長・大久保賢一弁護士の論考である。核兵器使用の非人道性を踏まえたうえで、米国の原爆投下の論理や核兵器国の核容認の論理を紹介し、核兵器条約の早期実現の展望などについて論述している。

 これらの論考は、各自の責任で書かれたもので、日本反核法律家協会の公式な見解ではない。けれども、各執筆者のその目指すところは、核兵器の非人道性を基礎に、核兵器を違法化し、核兵器のない世界を目指すということで、完全に一致している。

 この報告書が、一人でも多くの読者に巡り合い、一日も早く核兵器廃絶の日が来ることを願うものである。

2013年2月