1 これまでの経緯
当協会は、2016年から2019年の4年間、「朝鮮半島の非核化のために」を共通テーマとする意見交換会を連続して開催してきた。それぞれの会議の内容はその都度「反核法律家」で報告してきた(※i)。今年も、昨年までのテーマを継続し「朝鮮半島の非核化のために」として、朝鮮半島を含む北東アジアの平和の確立と非核化を目指して、意見交換会を実施したい。ここでは、昨年までの意見交換会での問題提起及び議論の要旨を採録し、その上で、新たな論点を指摘しておくこととする。
2 昨年までの意見交換会での問題提起の要旨
(1) 2016年の問題提起の要旨
2016年の問題提起では、2017年から始まろうとしていた「核兵器を禁止し全面廃絶へ導く法的拘束力のある協定」に係わる交渉を前に、朝鮮半島の非核化とは、北朝鮮に核兵器を放棄させれば済む問題ではないこと、日韓ともに米国の核の傘に依存していること、日本の北朝鮮敵視、米国は他国政府を武力で転覆することも辞さない姿勢であることなどを指摘した。
(2) 2017年の問題提起の要旨
2017年の問題提起では、2017年7月7日「核兵器禁止条約(TPNW)」が国連で採択され、核兵器のない世界に向けて画期的な一歩が踏み出されたものの、トランプ米大統領と金正恩委員長は相互に核兵器使用を公言、安倍首相(当時)はトランプに異を唱えず核兵器依存の姿勢は顕著であり、朝鮮半島ひいては北東アジアの非核化を確保しなければ、私たちは「壊滅的な人道上の結末」に直面することになると考えられることなどを指摘した。
(3) 2018年の問題提起の要旨
2018年の問題提起では、2018年4月27日に開催された南北首脳会談、6月12日開催された米朝首脳会談について、朝鮮半島での武力衝突を回避し、対話と交渉による平和的解決をはかり、朝鮮半島の非核化の実現ひいては核兵器のない世界を実現するための基盤を創設する第一歩になることを期待して歓迎すると指摘した。
意見交換会では、これら平和への道が大きく進もうとしている一方で、日本国内ではレーダー照射問題や徴用工判決の問題を大きく取り上げ、防衛費に多額の税金を投入し、憲法9条改憲を目指すなど、世界の流れに逆行していることや、朝鮮半島の非核化のためには、平和教育等を通じて核兵器の非人道性を共有し、北朝鮮に核廃絶を迫るだけでなく、相互の信頼のもとに、現実的かつ建設的に協議することが必要であること等が議論された。
(4) 2019年の問題提起の要旨
しかし、2018年の意見交換会以降、次のような国際情勢の変化により、朝鮮半島の非核化の実現の目標は後退した。
① 米国は中距離核戦力(INF)全廃条約から脱退し、ロシアもそれに対抗して条約履行義務停止の宣言をしたことにより、同条約が失効し、大国間の核軍拡競争が再燃しつつある。
② 米国はイランとの「核合意」を反故にし、中東における核兵器使用の危険性を高めている。ホルムズ海峡の安全確保のための「有志連合」が呼びかけられている。サウジアラビアの油田に対する攻撃はイランによるものだと言い立てられている。中東での大規模な軍事衝突の危険性に着目しなければならない。
③ 米韓の軍事演習は再開され、北朝鮮は短距離ミサイルの発射実験を実施している。米中間・南北間の対話が停滞している。
④ 日韓の対立は深刻な様相を示している。「徴用工判決」をきっかけとして、経済関係や安保政策の面でも、およそ「友好国」などとはいえない事態になっている。日本国内における「嫌韓意識」の醸成も異常な事態である。
2019年の問題提起では、これらの危険で深刻な事態を受けて、植民地支配や戦争被害者の人権をどう回復し補償するか、朝鮮半島を含む北東アジアの平和の確立や非核化のために、日本はどのような努力をすべきかを指摘した。
意見交換会では、歴史認識の相違があったとしても、若い世代の交流によって相互理解が進めば平和への道が開けること、他方で、若い世代の関心が低いのは問題であり、平和教育を通じてショッキングな写真を見せ被害の悲惨さを伝えるだけではなく、討論をして現実の問題に向き合うことが必要であることなどが議論された。
3 今年の意見交換会について
(1) 2019年の意見交換会で指摘した①~④の国際情勢は、残念ながら依然として継続している。さらに、2020年は以下のような状態にあり、朝鮮半島の平和の確立や非核化への歩みが停滞もしくは後退している状況にある。
⑤ 核兵器国間の核軍拡競争が激化し、世界「終末時計」が人類滅亡まで残り100秒とするほどに核兵器使用の危険性が高まっている。新戦略兵器削減条約(新START)延長をめぐる交渉も難航している。
⑥ 中国が新疆ウイグル自治区にある核実験場で、低出力の核実験を実施した可能性がアメリカ国務省により公表され、米中の緊張関係が高まってる。
⑦ アメリカ、中国、北朝鮮などが未批准もしくは未署名のため、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効に至っていない。
⑧ グローバル化の中で全世界が新型コロナウィルス(COVID-19)危機に直面している。新型コロナウィルス(COVID-19)危機の影響により2020年NPT再検討会議は延期された。
(2) 私たちが望むことは、窮極的には「核兵器も戦争もない世界」の実現である。そのためには、まず、朝鮮半島を含む北東アジアの平和の確立と非核化、核兵器禁止条約(TPNW)に北東アジアの各国が署名・批准することが極めて重要である。
2020年の新型コロナウィルス(COVID-19)危機は、全世界に未曽有の被害をもたらし続け、未だにその終息を見ない。多岐にわたる分野で経済活動が停滞し、格差と貧困がさらに広がり続けている。このような世界的な危機的情勢にもかかわらず、上記のとおり、核兵器保有国は核軍縮競争を激化させ、世界の平和から遠ざかろうとしている。現在の危機的状況においてこそ、全世界の国々が協調し、軍拡ではなく人々の生活を守るためにこそ、知恵と労力と資金力を割くべきである。
私たち日本反核法律家協会(JALANA)は、2020年4月8日には「新型コロナ危機-全世界的危機と国際協調の必要性」、8月3日には「『核兵器も戦争もない世界』の実現を目指して-被爆75周年・NPT50周年にあたっての私たちの決意」の2つの声明を発表し、「核兵器も戦争もない世界」の実現に向けての国際協調の必要性を社会に訴えた。
(3) 核兵器禁止条約(TPNW)は、2020年9月30日時点で署名国が84か国、批准国が46か国に上り、あと4か国が批准することで発効される。同条約の早期発効が期待されるが、朝鮮半島、日本を含む北東アジアの各国は署名・批准していない。朝鮮半島を含む北東アジアの平和の確立と朝鮮半島の非核化は、アジア諸国にとどまらず世界の非核化を現状から進めるためには不可欠である。そのためには、日本の植民地支配の犠牲となった朝鮮半島出身者の戦争被爆者ともつながった上で、共同して核兵器の非人道性を北東アジア全体に共有していくことが必要である。このような活動のために、我々に何ができるか、という点も重要な検討課題である。
日本は北東アジアの各国に対する過去の植民地支配に真摯に向き合うとともに謝罪し、唯一の戦争被爆国として、率先して核兵器禁止条約(TPNW)に署名・批准すべきである。核抑止論は核兵器の非人道性に向き合っておらず、またその実効性が極めて乏しいこと、同条約が核兵器保有国にも署名・批准する道が開かれており、同条約に基づいて世界の非核化を目指すことが最も現実的であることは、これまでの意見交換会でも盛んに議論されているところである。
今年の意見交換会では、新型コロナの拡大・蔓延が収束を見ないにもかかわらず軍拡に突き進む各国の状況の中、朝鮮半島を含む北東アジアの平和の確立と非核化、そのために核兵器禁止条約(TPNW)に北東アジアの各国が署名・批准すること、「核兵器も戦争もない世界」を実現するために、日本は今何をすべきか、また北東アジアの各国はどのように国際協調を図っていくべきかについて、様々な角度から意見交換を行いたい。
皆様方の様々な角度からの報告と議論を心から期待している。
なお、今年の報告者(パネリスト)は、崔鳳泰さん、白充さん、山田寿則さん、中村桂子さん、楊小平さんの5氏の予定である。
★意見交換会は、こちらからお申込みいただけます。