1 はじめに
当協会は、2016年~2021年にかけて、毎年「朝鮮半島の非核化」をテーマとし、総会に併せて意見交換会を実施してきた。
2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの軍事侵攻や核兵器使用の威嚇を契機に、世界において、核兵器使用の現実的リスクが高まりつつある。この状況は、日本が属する北東アジアにおいても異ならない。「核兵器も戦争もない世界」の実現のためには、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化と平和の確立が依然として重要である。
本年もまた、従前の議論を踏まえ、朝鮮半島の非核化をいかに実現するか、意見交換会を実施したい。
2 意見交換会における従前の議論
⑴ 2016年から2018年の意見交換会においては、核兵器禁止条約(TPNW)の採択(2017年)、南北首脳会談、米朝首脳会談の実現(2018年)という、朝鮮半島の非核化に向けた大きな前進があったものの、核兵器の使用可能性を排除せず互いに相手が譲歩することを求める米朝の姿勢が崩れることはなかったこと、日本も米国の核の傘に依存するどころか、米国の先制不使用宣言に反対し阻止する等、核抑止論を堅持し続けていることなどを分析し、非人道兵器である核兵器を許容する姿勢を批判した。
また2016年から2018年の意見交換会においては、崔鳳泰弁護士による120年戦争という問題提起、白充弁護士による北朝鮮への偏見に対する告発等、朝鮮半島の非核化を考える上で、日本による加害の歴史認識を深めることは避けて通ることはできないことを確認した。
⑵ 2019年及び2020年の意見交換会においては、中距離核戦力(INF)全廃条約からの米国の撤退とロシアの条約履行義務停止宣言、イラン核合意からの離脱、米韓軍事演習と北朝鮮のミサイル実験の再開、徴用工判決を契機とした日韓関係の悪化、米中関係の悪化等の状況を踏まえた議論が交わされた。
そして、北東アジアの非核化を実現するために日本に求められることは、核兵器禁止条約に参加し、若い世代も含めた対話を重ねることで相互の信頼関係を築き、憲法9条の理念に基づき非核化を実現することであることを確認した。
⑶ 被爆者は、日本国内だけに限られない。強制連行等によって日本に在住し、被爆した人々は、7万人に上るとされている。しかし、日本の戦争責任との関係で、アジア諸国において、核兵器の投下によって戦争、すなわち日本の加害から救われた、とする認識が強く、被爆者への支援も不十分で、核兵器の非人道性が強調されてこなかった。
近時、在韓被爆者が日本の被爆者と交流をすることにより、原爆に対する意識が変わりつつある。原爆投下を正当化する意識を徐々に変容させ、在韓被爆者は、その正義の回復を求め、米国政府に対して賠償を求めるに至っている。2020年意見交換会には、韓国原爆被害者協会会長のイ・ギュヨルさんと、日本被団協代表委員の田中熙巳さんをお招きし、同日付で両団体が共同声明を発表するに至った。
⑷ 2021年の意見交換会においても、引き続き在韓・在朝被爆者支援をとりあげ、朝鮮人被爆者の問題に取り組んできたジャーナリストの坂本洋子さん、韓国の原爆被害者を救援する市民の会の市場淳子さん、韓国で被爆者はじめ慰安婦や徴用工らを含む戦争被害者の正義回復に尽力してきた弁護士の崔鳳泰さんを招いて、パネルディスカッションを実施した。コメンテーターは、核フォーラムで核兵器禁止条約の解説を行う山田寿則理事が務めた。
意見交換会においては、核兵器禁止条約の署名・批准と核被爆者への支援と救済の必要性、核兵器国をも巻き込んで非核化を実現する必要性について議論がなされた。
3 2021年の意見交換会後の核兵器廃絶をめぐる世界情勢
⑴ 2022年6月21日から23日にかけて、核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議がオーストリア・ウィーンで開催され、「宣言」が採択された。
締約国会合で採択された「宣言」は、核抑止論を明確に否定し、「核兵器がもたらす壊滅的な人道的影響」は「国境を越え、人間の生存と幸福に重大な影響を与える。」としたうえ「すべての国は、国際法および2国間協定に基づくそれぞれの義務に従って、核軍縮を達成し、あらゆる面で核兵器の拡散を防止し、核兵器の使用または使用の脅威を防止し、核武装国の過去の使用及び実験によって生じた被害者を支援し、被害を救済し、環境被害を修復する責任を共有している。」として、核被害者の支援と救済の必要性について、改めて言及している。
⑵ 2022年8月1日から26日にかけて、4度にわたり延期された核兵器の不拡散に関する条約(NPT)再検討会議がニューヨーク国連本部で開催されることとなった。
核兵器禁止条約第1回締約国会合後、最初のNPT再検討会議である。TPNWは発効したが、核兵器保有国や核兵器依存国の参加を前提とする「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」は存在しない。このような法的枠組みは、TPNWと相互補完関係にあるNPTに基づき、NPT締約国間において確立されるべきである。今回のNPT再検討会議に向け、当協会は締約国に対し、法的枠組みの確立を求める要請文を発表した外、核兵器廃絶日本NGO連絡会はじめ市民社会は外務省に対し、「過去の合意」を再確認し核兵器国に6条の履行を求めることなどを要請しており、NPT再検討会議が然るべき役割を果たすことが求められている。
4 本年の意見交換会について
⑴ 2021年の意見交換会以後、当協会は上述の要請文の外、「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」の提案、「ロシアの核兵器使用の威嚇に抗議し、核兵器国に核兵器の不使用と廃絶を勧告する決議を!!」の提出(核兵器禁止条約第1回締約国会議に提出した作業文書)等により、「核兵器も戦争もない世界」の実現を目指す必要性を引き続き主張してきた。
また、「過去をふり返り未来を見据える:核被害者に正義を!」、「核兵器禁止条約逐条解説改訂版の発表」、「核フォーラム『TPNW条約締約国会議からNPT再検討会議へ』」等の各種ウェビナーでのイベントにより、TPNWやNPTの意義、核被害者支援と救済の必要性を市民向けに普及してきた。
⑵ 昨年までの意見交換会で得られた成果、核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議の状況、NPT再検討会議の状況等を踏まえ、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化と平和 の確立のために、在韓・在朝被爆者を含む核被害者の支援と救済をはじめとして、戦争被爆国の法律家として何をすべきか、本年の意見交換会においても引き続き、報告やパネルティスカッションにより、議論していきたい。活発な討議と意見交換を期待する。
以上
(2022年8月10日)