2023年意見交換会・問題提起
日本反核法律家協会 事務局長
弁護士 森 一恵
1 初めに
当協会は、2016年~2022年にかけて、「朝鮮半島の非核化」をテーマとし、意見交換会を実施してきた。2022年2月24日以降のロシアによるウクライナへの軍事侵攻や核兵器使用の威嚇を契機に、世界において、核兵器使用の現実的リスクが高まりつつある。安保三文書の改訂によって、敵基地攻撃能力の保有を明記する等の日本政府の動向等から、核兵器使用の現実的リスクは、日本が属する北東アジアにおいても異ならない。「核兵器も戦争もない世界」の実現のためには、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化と平和の確立が依然として重要である。本年もまた、従前の議論を踏まえ、朝鮮半島の非核化をいかに実現するか、意見交換会を実施する。
2 意見交換会における従前の議論
- 2016年から2018年の意見交換会においては、核兵器禁止条約(TPNW)の採択(2017年)、南北首脳会談、米朝首脳会談の実現(2018年)という、朝鮮半島の非核化に向けた大きな前進があったものの、核兵器の使用可能性を排除せず互いに相手が譲歩することを求める米朝の姿勢が崩れることはなかったこと、日本も米国の核の傘に依存するどころか、米国の先制不使用宣言に反対し阻止する等、核抑止論を堅持し続けていることなどを分析し、非人道兵器である核兵器を許容する姿勢を批判した。
また2016年から2018年の意見交換会においては、朝鮮半島の非核化を考える上で、日本による加害の歴史認識を深めることは避けて通ることはできないことを確認した。
- 2019年及び2020年の意見交換会においては、中距離核戦力(INF)全廃条約からの米国の撤退とロシアの条約履行義務停止宣言、イラン核合意からの離脱、米韓軍事演習と北朝鮮のミサイル実験の再開、徴用工判決を契機とした日韓関係の悪化、米中関係の悪化等の状況を踏まえた議論が交わされた。そして、北東アジアの非核化を実現するために日本に求められることは、TPNWに参加し、若い世代も含めた対話を重ねることで相互の信頼関係を築き、憲法9条の理念に基づき非核化を実現することであることを確認した。
- 2020年から2022年の意見交換会においては、在韓・在朝被爆者支援と救済の必要性について、戦争被爆国の法律家として何をすべきか、議論が交わされた。
すなわち、日本の戦争責任との関係で、アジア諸国において、核兵器の投下によって戦争、日本の加害から救われた、とする認識が強く、核兵器の非人道性が強調されてこなかった。しかし近時、在韓被爆者が日本の被爆者と交流をすることにより、原爆に対する意識が変わりつつある。原爆投下を正当化する意識を徐々に変容させ、在韓被爆者は、その正義の回復を求める意識が高まっている。そこで、在韓・在朝被爆者支援と救済の必要性について、意見交換会のテーマとした。2022年の意見交換会では、在韓被爆者をはじめ韓国市民社会が準備を進めているアメリカの原爆投下を裁く韓国国際民衆法廷のとりくみが提起された。あわせてコスタリカ平和・共存・グローバル安全保障協会からのビデオメッセージも紹介された。
3 本年の意見交換会について
- 本年の意見交換会では、昨年までの意見交換会で得られた成果、2026年NPT再検討会議に合わせて企画されているアメリカの原爆投下を裁く韓国国際民衆法廷の取り組みの状況、TPNW第2回締約国会合への期待等を踏まえ、朝鮮半島を含む北東アジアの非核化と平和の確立のために、在韓・在朝被爆者の支援と救済を含め、植民地支配国・侵略国であり、かつ戦争被爆国である日本の法律家として何をすべきか、引き続き報告やパネルティスカッションにより、議論する。
- 報告者兼パネリストとしては、大韓弁護士会・弁護士の金娘嬉さん、韓国の原爆被害者を救援する市民の会の会長の市場淳子さん、沖縄県の弁護士白充さん、日本原水爆被害者団体協議会事務局次長の和田征子さんの4名の方をお招きした。活発な議論と意見交換を期待したい。
以上