植民地・朝鮮戦争と朝鮮半島の非核化
-関東大震災から100年・停戦協定から70年を機に考える-
2023年11月11日
日本反核法律家協会
弁護士 白 充(ぺくちゅん)
第1 「朝鮮半島の非核化」とは何か、本質において何を目指すことなのか
- 「朝鮮半島の非核化」とは何か
- 朝鮮の核兵器をなくす、韓国の「核の傘」の解消(*日本の「核の傘」も)
- 在朝・在韓、被爆者の救済
- 「朝鮮半島の非核化」とは、本質において何を目指すことなのか
- 朝鮮戦争の解消
- 植民地支配の清算(植民地主義の克服)
①は、朝鮮戦争を機に、今なお「逆コース」を辿り続ける戦後日本の「国家主権(国際的意味での主権)」と「民主主義(国内的意味での主権)」の問題
*この矛盾は、沖縄(例:辺野古新基地問題)に象徴的に現れている
②は、過去清算の問題であると同時に、安倍・麻生・ヘイトスピーチに代表される戦前からの植民地主義の連続性をいかに克服するかという問題
*「加爆者」の議論と同様、「植民地加害者は誰か」という問題
- 時系列の確認
1860年代 明治維新
1875年 江華島事件(朝鮮侵略の足がかり)
1879年 琉球処分
1910年 朝鮮併合
1919年 3.1独立運動
1923年 関東大震災と朝鮮人大虐殺(今年で100年)
1945年 原爆投下、終戦(敗戦=日本国民被害者論の蔓延・加害忘却)
1947年 日本国憲法制定(国民主権・人権尊重・平和主義)
1950年 朝鮮戦争開始、警察予備隊組織(「逆コース」開始)
1951年 サンフランシスコ条約+日米安保条約
1953年 朝鮮戦争停戦(今年で70年)
第2 沖縄で起きていること、朝鮮半島で起きていること
- 沖縄で起きていること
- 沖縄のみ、Jアラートが2度鳴っている(5月、8月)
危機を煽る(朝鮮戦争が背景にあることは、言わない)
*2018年、河野太郎外相は、要旨、いまだに進展が見られないとして、北朝鮮が求める朝鮮戦争の終戦宣言に応じるのは時期尚早だという認識を示している。朝鮮戦争が終わっていないことは、日本政府にとっては好都合。
*今年の広島サミットを、(過去にサミットを経験した)沖縄はどうみたか
- 辺野古新基地建設に向けた国の強権的態度
これこそ「民主主義への挑戦」では?(安倍殺害の時に使われていた言葉だが、ここで使うべきでは?)
地方自治をもないがしろにし、人権尊重の原則にも反している
*憲法を遵守しているのは、最高裁か、それとも県知事か
- これらは、沖縄に対する植民地主義の発露であると同時に、朝鮮戦争が終わっていないことにより生じる問題
沖縄を「もう一度」戦場にするのか?
これからの戦争を回避し、今までの戦争を解消する努力が求められる
- 朝鮮半島で起きていること
- 尹大統領は、今年8月の光復節祝辞で、「国連司令部の日本基地7カ所が、北朝鮮の南侵を抑制している」と発言 。韓国大統領として、このような発言は初めて。
「国連司令部の日本基地7カ所」とは、横須賀(海軍)、横田(空軍)、佐世保(海軍)、キャンプ座間(陸軍)の4カ所と、沖縄の嘉手納(空軍)、普天間(海兵隊)、ホワイトビーチ(海軍)の3カ所の在日米軍基地を指す(例えば、嘉手納・普天間・ホワイトビーチには、「朝鮮国連軍」の旗が掲げられている)
*日本は、「朝鮮国連軍」の後方司令部となっている(外務省HP「朝鮮国連軍と我が国の関係について」参照)
【参考:「朝鮮国連軍」の問題点】
朝鮮戦争と日米韓軍事同盟が密接に関わっていることについて明言
*今年に入ってから行われた日米韓軍事訓練(
資料1 *5月まで)
*初の日米韓空中訓練も実施(
資料2)
*「岸田首相は安倍元首相より酷い」なのか?2018年(首脳会談ラッシュ)と比較したときに、米韓の大統領が変わっていることにも注目すべき。
【参考:2018年以降の年表】
*1965年の日韓基本条約締結時、日本国内では「三国軍事同盟反対!」と叫んだ(「親日派」という言葉の実質は、「三国軍事同盟推進派」)
朝鮮戦争が再燃すれば、沖縄・日本全体が出撃拠点となる
*朝鮮戦争における日本の関与ないし加害性については、林博史『朝鮮戦争 無差別爆撃の出撃基地・日本』(高文研、2023年)
*朝鮮戦争の歴史的経緯については(特に「朝鮮戦争は北側が起こした」と考えている方には必見の書)、ブルース・カミングス『朝鮮戦争の起源1-1945年-1947年解放と南北分断体制の出現』(鄭敬謨・林哲・加地永都子訳、明石書店、2012年)
- 朝鮮半島では「戦争が終わっていない」
「新たな戦前」ではない。日本も関与し、特需を得て、今なお関与し続けている、朝鮮戦争が「終わっていない」。
第3 最後にー戦争が終わっていない中で
- 「俺は持つ、お前は持つな、核兵器」が通じる訳がない
- いわんや、戦争が終わっていない中で、一方は核兵器を持ち、三国軍事同盟と核の傘の下で軍事訓練を頻繁に行なっているのに、他方の朝鮮に対して核兵器を持つことを非難することの偽善、アンバランスに、法律家として敏感であるべき
*板門店には、朝鮮と「米国」の国旗が掲げられている
- 「朝鮮半島の非核化」を本質的な意味で達成するには、戦争終結と植民地過去清算が必要なのではないだろうか。
【参考:「朝鮮国連軍」の問題点】
- 安保理決議84号で、米国による統一指揮権の下に部隊や支援を形成することを「勧告」。米国に国連旗の使用を許可。しかし、以下の問題点
①ソ連欠席のままの安保理決議
②国連憲章では強制措置(部隊や支援を形成する措置)をとるには「決定」が必要とされている。「勧告」だけでは、軍を編成できないはず。
③84号決議では、「統合軍司令部」となっていたのに、米国は「国連軍司令部」と呼称を変更。
フォトジャーナリスト・李時雨の指摘:「彼ら(米国)は、『勧告』と書いてあるのを『決定』と読んだだけでなく、『統合司令部』と書いてあるのを『国連軍司令部』と読むという例外的決定を行なったのである」
1975年の国連総会決議(最高意思決定機関)では、国連軍司令部の解体決議がなされたが、未だ実行されていない。
④84号決議がなされた時点における国連旗規定には、軍事作戦における旗の使用を許可する条項はなかった。同決議後である1950年7月28日に規定を発表。すなわち、事後立法であり違法。
1993年当時の国連事務総長ガリは、国連旗の使用を否定している
【参考:2018年以降の年表】
- 2018.4.27
南北首脳会談-板門店宣言
- 2018.5.24
朝鮮・核実験場廃棄
- 2018.5.26
南北首脳会談
- 2018.6.12
米朝首脳会談@シンガポール
- 2018.9.18、19
南北首脳会談-文在寅大統領・平壌演説、平壌共同宣言合意書
※軍事当局者合意
▼地上・海上・空中のすべての空間での敵対行為の全面中止
▼非武装地帯の平和地帯への転換
▼西海北方限界線一帯の平和水域への転換
▼北南交流の活性化に必要な軍事的保障対策
▼相互軍事的信頼構築のための多様な措置
- 2019.2.27
米朝首脳会談@ハノイ(ボルトン出席)
- 2019.3.4〜12
米韓は、毎年行われていた米韓合同軍事演習、「キー・リゾルブ」と「フォール・イーグル」を中止。しかしながら、指揮所演習「アライアンス」を実施(「通常軍事活動の戦略、オペレーション、戦術面」に焦点を絞り規模を抑えた、と報道されている)
- 2019.4.18
戦術誘導兵器(短距離兵器)を発射
*2018年は、ミサイル等発射実験を行っていない
- 2019.6.30
米朝韓首脳・板門店対談
- 2019.8.5〜20
米韓合同軍事訓練実施
*前統一部長官の指摘:「ハノイ後、関係好転の契機を失ったのはこの時」(リンク先:朝鮮語)
- 2019.12.3〜16
日米共同方面隊指揮所演習「ヤマサクラ」実施
- 2020.3
コロナの影響で米韓合同軍事演習は中止
- 2020.4.15
韓国・総選挙(当時の与党圧勝)
- 2020.6.4
金与正党中央委員会第一副部長による談話
- 2020.6.5
党中央委員会統一戦線部による談話
- 2020.6.9
朝鮮・南北連絡網遮断
- 2020.6.12(シンガポール会談から2年)
朝鮮外務相による談話(2年間の米国の対応を非難)
※2020.6.11
朝鮮外務省米国担当による米国批判(南北関係に介入するべきでない)
朝鮮統一戦線部長による談話(南に対する信頼は崩れた)
- 2020.6.13
金与正党中央委員会第1副部長による談話(爆破予告)
- 2020.6.15
文在寅大統領、特使派遣要請(朝鮮側は拒否)
※2000年6月15日:初の南北首脳会談が行われた日(20周年)
- 2020.6.16
連絡事務所爆破
- 2020.8
米韓合同軍事演習実施(コロナの影響で規模は縮小)
- 2020.11.3
米大統領選挙
- 2022.3.9
韓国大統領選挙
- 2022.5.6
NATOサイバー防衛協力センター正会員に加入(アジア初)
- 2022.6.30
NATO首脳会議、日米韓首脳会議(4年9ヶ月ぶり)に出席
- 2022.9.30
日米韓共同訓練
- 2022.11.13
日米韓首脳会談
- 2023.2.22
日米韓共同訓練
- 2023.3.15
日韓首脳会談
- 2023.7.15
尹大統領、ウクライナ訪問。首脳会談
- 2023.7.16
日米韓共同訓練
- 2023.8.18
日米韓首脳共同声明「キャンプ・デービットの精神」
*「朝鮮半島の非核化」から「北朝鮮の非核化」へ後退
- 2023.8.21〜
米韓合同軍事演習
- 2023.10.22
初の日米韓空中訓練
以上