国際反核法律家協会(IALANA)による法的分析(2023年8月18日)
訳:聖心女子大学国際交流学科講師(国際法・国際人権論) 佐々木 亮
2022年2月にロシアによるウクライナ侵略が始まって以来、紛争の両当事者 -ただし、特にロシア軍- は、クラスター兵器を大規模に使用し、数百人もの文民を死傷させてきた(※1)。遺憾であり非難されるべきである。しかし、本分析は、ウクライナにクラスター兵器を供与するとの米国の決定に焦点を当てる。2023年7月7日、人道上の懸念があるにもかかわらず、米国政府は、クラスター兵器をウクライナ軍に提供すると発表した。このような論争の的となっている兵器を供与するという決定は、その兵器に特有の性質ゆえに、大きな批判を引き起こした(※2)。クラスター兵器が、広範囲に「子弾」を拡散することにより、ウクライナ軍は、より集中的にロシア軍に狙いを定めることができる。軍事の専門家によると、ウクライナの工兵部隊は、クラスター弾を用いることで、ロシアの防衛線を防護する防衛地雷敷設地域を一掃することができたという(※3)。クラスター弾には、主に2つの問題がある。1つは、爆発の威力と子弾を広範囲にまき散らすこと、もう1つは、子弾の中にその衝撃では爆発しないものがあるため、地雷原のようになって、文民に対する人道上のリスクを長期間にわたって生じさせることである。ウクライナに供与されたのは、M864型とM483A1型で、米国政府によると不発率は2.4%である(※4)。
本分析は、問題となっているこの兵器をウクライナに供与することの国際法上の適法性 ―特に国際人道法・人権法上の適法性― を評価することを目的とする。最後には、米国がどのようにすれば、この兵器によって生じる人道上の被害を回避できたか、少なくとも最小化し得たか、結論を提示する。
A. オスロ条約および武器貿易条約
仏英独のようなヨーロッパの同盟国と異なり、米国はクラスター弾禁止条約(オスロ条約)を批准していない。2008年に採択された同条約は、1条1項でクラスター弾の「移譲」を禁止しており、現在までに111ヵ国が批准している。2013年に採択された武器貿易条約も、武器の移譲に制限を課しており、113ヵ国がこれに加わっている。米国は、武器貿易条約に署名はしたが、批准はしていない(※5)。署名をすれば、批准を保留したままであっても、正式な批准に先立って一定の法的義務が生じる。1969年の条約法に関するウィーン条約(条約法条約:VCLT)18条は、ある条約に署名した国家に対して、発効していない当該条約の趣旨目的を失わせるような行為をしないよう要請している:
いずれの国も、次の場合には、それぞれに定める期間、条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務がある。
(a)批准、受諾若しくは承認を条件として条約に署名し又は条約を構成する文書を交換した場合には、その署名又は交換の時から条約の当事国とならない意図を明らかにする時までの間 […]
しかし、米国によるクラスター弾の供与が、本当に武器貿易条約の趣旨目的に反するかどうか、さらに立ち入って検討する必要はない。なぜなら、米国は、2019年4月26日のトランプ前大統領の宣言によって、同条約への署名を取り消したからである(※6)。この行為が、関連する米国憲法上の要請に従って行われたことに鑑みれば、条約への署名を取り消す権利を条約法条約が明示していないとしても、同宣言は、条約法条約18条に従って、「条約の締約国にならない」という米国の意思を明示的に表現したものだと解釈できる。
さらに、著しく多数の国が、クラスター弾禁止条約と武器貿易条約を批准していることを考慮すれば、同兵器の供与を禁止または制限する両条約上の規定は、慣習法としての性格を有し、その結果、米国も拘束すると考えることもできる。しかし、この点についての評価 ―特に、関連する国家実行についての分析― は、本分析の範囲を超えている。また、米国によるクラスター弾の供与が、他の根拠によっても違法とされることに鑑みれば、その分析は不要である(※7)。
B. 1949年ジュネーヴ諸条約共通1条
米国も締約国となっているジュネーヴ諸条約の共通1条は、締約国に対して、「すべての場合において、この条約を尊重し、且つ、この条約の尊重を確保すること」を義務付けている。この規則も、慣習国際法の1つである(※8)。共通1条に記されたこの無条件の義務は、相互主義に基づくものではなく、文理解釈上、平時にも適用される(※9)。
武器の供与に関して、赤十字国際委員会(ICRC)による共通1条についての解説では、過去の事実や知識に照らして、武器がジュネーヴ諸条約に反して使用される可能性がある場合、締約国は武器の供与を差し控えるよう要請されると指摘されている(※10)。1つ例を挙げると、戦時における文民の保護に関するジュネーヴ第4条約の27条1項は、次のように定めている:
「被保護者は、すべての場合において、尊重される権利を有し」、「常に人道的に待遇しなければならず、特に、すべての暴行又は脅迫 […] から保護しなければならない」。
先述のクラスター弾のもう1つの特徴的な影響 -敵対行為の終了後も致死性の残存物があり、子どもを含む文民が犠牲になっていること- を考慮すれば、ジュネーヴ諸条約共通1条は、第4議定書27条1項と考え併せて、米国によるウクライナへのクラスター弾の供与にも妥当するといえる。
結果として、クラスター弾の供与は、国際人道法を尊重し、かつ、その尊重を確保する米国の義務に違反すると考えられる。
本節では、クラスター弾の受領者であるウクライナの国際違法行為を米国が後押ししているという点から、クラスター弾供与の違法性に関する責任が、米国に帰属するかどうかを検討する。特に、2001年に国連国際法委員会によって採択され、慣習国際法を反映していると考えられる「国際違法行為に対する国家の責任に関する条文(国家責任条文)」に基づいて、かかる供与に対し米国は責任を負うかどうか分析する。
A. 一般条件
国家責任条文16条は、次のように規定している:
国際違法行為遂行上の支援又は援助:
他国による国際違法行為遂行の支援又は援助をする国家は、次の場合、支援又は援助することに対する国際責任を負う。
(a)その国家が、国際違法行為の事情を認識して、その行為を行い、且つ、
(b)その国家によって遂行された行為が、国際法違反である場合。
米国によるクラスター弾供与にこれらを当てはめるなら、主に次の3つの問いに答えなければならない:
第一に、兵器に供与が、16条1項の意味での「支援」または「援助」を構成するのか、若干の疑問が残る。第二に、徐々に知られてきたこの兵器から生じる人道上の懸念に鑑みて、米国は、「国際違法行為の事情」(a項)を認識しているべきだと考えられるか。16条a項の文言は、米国が行為の違法性に気付いたり認識したりすることを求めてはいない。
ここでの重要な問いは、a項の中にある。すなわち、もし、その行為が、「支援又は援助をする国家」によって行われたとしても、国際法上違法かどうか、という問題である。ここで明らかにすべきは、ウクライナと同じ状況下で、仮に、米国がロシアの侵略行為に対してクラスター弾を使用したならば、米国は国際違法行為をしたことになるのかという点である。
B. クラスター弾使用の適法性に関する評価
1. 国際人道法の視点
a)区別原則
まず、ウクライナも米国も、オスロ条約を批准していない。同条約1条1項a)は、クラスター兵器の使用を禁止している。それでも、慣習国際人道法の中に、そのような禁止規則が存在するかという問いは、なお残る。
赤十字国際委員会(ICRC)のデータベース上では、クラスター弾は、化学兵器・生物兵器・核兵器の例とは対照的に、その使用または特定の方法による使用が、国際人道法によって禁止される兵器には数えられていない。しかし、特定の種の兵器の使用を禁止する特段の規則が存在しないからといって、その使用が許されていることにはならない。なぜなら、国際人道法上の一般原則によって禁止される可能性もあるからだ。
オスロ条約自体の前文の中で、最も関連性のある国際人道法上の原則が再確認されている:
この条約の締約国は […]
国際人道法の諸原則、特に武力紛争の当事者が戦闘の方法及び手段を選ぶ権利は無制限ではないという原則、並びにその性質上過度の傷害若しくは無用の苦痛を与える兵器、投射物及び物質並びに戦闘の方法を武力紛争において用いることを禁止する原則、並びに文民たる住民と戦闘員とを区別するという原則に立脚して […]。
【訳者注】この引用部分は、オスロ条約前文と一部異なっており、引用に誤りがあると考えられるが、本翻訳では原文に従って訳出した。
特にクラスター弾との関連性を有するのは区別原則である。これによれば、国家は文民を攻撃目標にしてはならず、文民と軍事目標を区別することが不可能な兵器を使用してはならない(※11)。この原則は、1907年に採択された「陸戦の法規慣例に関するハーグ規則」25条に既に明示されていた(※12)。今日では、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書48条にも見られる(※13)。クラスター弾について言えば、その子弾の広範囲への広がりと拡散効果が、文民たる住民に対して生じさせる危険性は、オスロ条約の核心に関わる主要な懸念の1つである(※14)。
さらに、爆発しなかった戦争残余物によって、子どもを含む人々が命を落としたり重傷を負ったりすることは、よく知られている。しかも、武力紛争中だけでなく、戦闘行為が終結した後、何年もそれが続く(※15)。米国政府は、問題となっているクラスター弾の不発率は2.4%だと主張している(※16)。しかし、このことは、クラスター弾を大規模に使用した後、相当な数の不発子弾が残る可能性があることを示唆している。
すなわち、クラスター弾は区別原則に反し、その結果、国際人道法上は違法だと考えねばならない。この結論は、ICRCの慣習国際人道法データベースでも承認されており、そこで示されている規則71によれば、「その性質上、軍事目標と非軍事目標を区別不能な兵器の使用は、禁止されている(※17)」。同規則の註解によると、クラスター弾は、国家実行の中に見られる例の1つである。
b)マルテンス条項
より広く国際法の諸原則を見ると、その根底には特定の規則が存在する。新兵器の使用が国際法上の諸原則に違反する場合、特段の規則が存在しなくても国際法違反となることがある(※18)。1945年8月の広島・長崎への原爆投下を扱った下田判決(東京地方裁判所、1963年)は、以下のように判示して、このことを確認した:
単に新兵器であるというだけで適法なものとすることはできず、やはり実定国際法上の検討にさらされる必要のあることは当然である(※19)。
この点に関して、いわゆる「マルテンス条項」が重要である。マルテンス条項は、クラスター弾の違法性についてのさらなる根拠を提供しているというのが、IALANAの立場である。同条項の名称は、ロシアの法学者フョードル・フョードロヴィチ・マルテンスにちなんで付けられたもので、マルテンスはこの条項の起草に寄与し、採択を確実なものにした。当時存在した慣習国際法を法典化した「陸戦の法規慣例に関する条約(ハーグ陸戦条約、1907年)」の前文で、初めて明文化された(※20)。
対人地雷禁止条約(オタワ条約)やオスロ条約の前文には、現代版のマルテンス条項が挿入されていると言って良い。
この条約の締約国は […]
文民及び戦闘員は、この条約その他の国際取極がその対象としていない場合においても、確立された慣習、人道の諸原則及び公共の良心に由来する国際法の諸原則に基づく保護並びにこのような国際法の諸原則の支配の下に置かれることを再確認し […]
【訳者注 対人地雷禁止条約(オスロ条約)前文】
国際司法裁判所(ICJ)は、1996年の「核兵器の威嚇・使用の合法性に関する勧告的意見」の中で、「『マルテンス条項』は、軍事技術の急速な発達に対応するための効果的な手段であることが明らかになってきた」と述べた(※21)。クラスター弾の使用に当てはめるなら、第1条1項で同兵器の使用を禁止しているオスロ条約を支持しない国との間ではクラスター弾使用の禁止が普遍的に受け入れられてはいないという溝を、マルテンス条項が埋める可能性がある。
以上のことから、クラスター弾の使用は、少なくとも国際人道法上の区別原則と「マルテンス条項」に反するといえる。それゆえ、本分析の目的に照らせば、クラスター弾の使用が、国際人道法上の他の原則や規則にも反するのかという問題が残る。
2. 人権法の視点
特に、現在も続く戦闘行為が一度終結した際には、国際人道法に加えて、人権法も本分析に関係してくる。
チェチェン紛争に関連し、ロシアを被申立国とした事件において、ヨーロッパ人権裁判所は、当該状況下で必要な限度を越えていたことを理由に、生命に対する権利(ヨーロッパ人権条約2条)の侵害があると判示した:
しかし、[当裁判所は]、参照可能な資料に照らし、1999年10月19日の作戦行動の準備段階で、当該作戦の対象者と文民双方の生命が失われる危険性を可能な限り回避または最小化するために必要な程度の注意が払われていたと認めることはできない(※22)。
同事件では、ロシアの軍事作戦で250~270kgの高性能破片爆弾が使用されたことにより、6人が死亡、16人が負傷し、13件の家屋が破壊された。ヨーロッパ人権裁判所は、この兵器が「軍事目標と非軍事目標を区別不能」だとし(※23)、これを住宅地で使用することは、過激派を掃討するという目的に対して、「明らかに均衡を欠いている」と結論付けた(※24)。
さらに、紛争終結後の致死性残留物に鑑みても、クラスター弾の使用は、基本的人権と両立しない。クラスター弾の不発子弾と似た紛争後残留物を残す対人地雷に関して、地方自治体が地雷の危険性を住民に明確に知らせたり、地方自治体の義務として地雷の場所を特定し爆発しないように処理したり、地雷が敷設された地域を標示・封鎖したりすることを怠ったことを理由に、ヨーロッパ人権裁判所は、国家による生命に対する権利の侵害を認めた。その結果、羊を放牧していた9歳の少年が犠牲となったトルコの事件において、同裁判所は、ヨーロッパ人権条約2条(生命に対する権利)が定める被害者の生命を保護すべき積極的義務の違反があったと判断した(※25)。
3. 小括
以上で検討した通り、クラスター弾の使用は、おそらく、国際人道法・人権法の双方において、国際法上違法であろう。それでも、ウクライナが、クラスター弾使用の違法性を阻却されるような状況下にあったのかという問題が残る。その議論にとって最も確かな根拠は、自衛である。
C. 違法性が阻却される状況なのか?
自衛は、ILCの国家責任条文21条において、次のように定義されている:
ある行為が、国連憲章に従って行われる自衛の法的要件を満たしている場合、国家行為の違法性は阻却される。
ウクライナは、国際連合憲章51条で言う「武力攻撃」の被害者であり、その結果、「個別的又は集団的自衛の固有の権利」を行使する資格を有することについては、基本的に争いはない。それでもなお、「核兵器の威嚇・使用の合法性に関する勧告的意見」において、ICJが次のように指摘したことを想起しなければならない。
均衡性の原則それ自体は、自衛のあらゆる状況において、核兵器の使用を排除するものではない。しかし同時に、力の行使が、自衛に関する法規則上、均衡がとれて合法であるためには、特に人道法上の原則と規則を含む武力紛争に適用される法上の要件を満たしていなければならない(※26)。
この背後にある論理は、相手方の交戦当事者がそれを尊重しない場合を含めて、国際人道法の基礎は、いかなる場合にも遵守されなければならないというものである。言い換えれば、国際人道法規則の遵守は、相互主義を条件とするものではない。その結果、ロシアによる違反を根拠として、ウクライナが国際人道法規則を尊重しないことはできない。クラスター弾使用の例のように、ウクライナが国際人道法に違反している場合、ロシアによる違反に対して、国連憲章51条の意味での自衛権を有効に援用できなくなる。
以上より、次の結論に至った。
米国が担っている役割との関連で、ウクライナへのクラスター弾供与は、特にその広範囲に及ぶ爆発力と拡散効果、致死性の残留物や不発子弾の脅威が、特に文民である住民に対して戦闘行為の終結後何年も続く点で、国際人道法・人権法に照らして違法だと言わざるを得ないというのが、IALANAの立場である。
このことは、国家責任条文16条の下で、米国の責任を生じさせる。加えて、1949年のジュネーヴ諸条約共通1条の下でも、米国の直接の責任が問われる。
それにもかかわらず、米国がウクライナに供与したクラスター弾による人道上の被害を回避または最小化するため、IALANAは米国に対し、供与されたクラスター弾が住宅地で使用されるのを回避するために必要なあらゆる段階を踏み、戦争の不発残存物が残る地域を可能な限り速やかに識別・中立化するよう要求する。後者の点は、道徳上の責務であるだけでなく、法的義務でもある。
この点に関連して、米国が、特定通常兵器使用禁止制限条約(1980年)の附属議定書5の締約国であることが想起される(※28)。それによれば、戦闘行為の中断後できる限り早期に、締約国と交戦当事国は、管理下にある戦闘地域において、爆発性の戦争残存物を標示・特定し、除去または破壊しなければならない(3条2項)(※29)。換言すれば、主たる責任は領域国にあり、それは米国ではない。しかし、同条約8条により、締約国には様々な領域での法的な協力義務が課せられており(「そのようにする立場にある締約国は[…] しなければならない)、それには、戦争残存物の標示・撤去・除去・破壊(※30)、危険性に関する教育や被害者に対する援助、国連やその関連機関その他を通じた信託基金への拠出等が含まれる。本件における米国のように、兵器の使用によって、特定通常兵器使用禁止制限条約(1980年)の附属議定書5の意味での不発残存物を残す可能性のある締約国の場合には、この義務はより一層厳格に解されるべきである。