先日、ジュネーブで開催されていた「核軍備の縮小・撤廃に向けた多国間交渉の前進を図る国連作業部会」(OEWG)について、外務省から説明を受ける機会があった。外務省の担当者は、軍縮不拡散・科学部審議官と軍備管理軍縮課長と日米安全保障条約課長の3名である。
説明の概要
作業部会は、2015年の国連総会決議に基づいて、今年2月、5月、8月と三回開催された。会議には約100か国と市民社会が参加している。米国など核兵器国は参加していない。日本は、コンセンサスでの採択を目指して積極的に参加した。8月5日から19日の間開催された第3回会合では、「国連総会が、2017年に、すべての加盟国に開かれ、国際機関と市民社会の参加と貢献を得て、完全廃絶につながる核兵器を禁止する法的拘束力のある措置を交渉する会議を開催するよう、幅広い支持を得て勧告した。」との文言を含む報告書を、賛成68、反対22、棄権13で採択した。日本は棄権した。その理由は、「核兵器のない世界」の実現のためには核兵器国と非核兵器国の協力が不可欠であり、採択が投票に持ち込まれたことは遺憾である、というものである。ちなみに、主な反対国は、オーストラリア、ドイツ、イタリア、カナダ、韓国など。オランダ、ノルウェー、フィンランド、スイスなどは棄権であった。
日本政府の行動の特徴
日本政府は、「完全廃絶につながる核兵器を禁止する法的拘束力ある法的措置の交渉開始の勧告」に賛成していない。ただし、担当者の説明によれば、勧告の内容についての賛否ではなく、コンセンサス方式ではないので棄権したのだということである。内容についての賛否ではないということであるが、交渉開始に賛成していないことははっきりしている。もちろん、内容に賛成しているわけでもない。
私は、担当者に、日本政府はどのような内容のコンセンサスを追求したのかと質問した。担当者の答えは、外交交渉の中味になるので答えられないというものであった。そして、各国の意向を確認しながら、各国が同意できるところを探していたというのである。結局、何か具体的な内容を提案してコンセンサスを求めたわけではないようである。
また、同席したNGOのメンバーの「この作業部会を受けて、国連総会でどのような態度をとるのか」という質問については、諸外国がこの勧告がどのように受け止められているのかを確認した上で決めていきたい、まず、話を聞くことから始め、何ができるのかを探っていきたいとの答えであった。この態度に、核廃絶に向けて、主体的に積極的提案をする意思を見て取ることはできない。
そして、担当者が強調するのは、日本は「核兵器のない世界」の追求を米国と共有しているということであった。また、米国が今回の勧告を拒絶するとしていることについては、「核抑止論」の立場からの反応だろうと、日米安全保障課長がコメントしていた。要するに、外務省は、米国がこの勧告を拒絶していることを知りながら、米国と歩調を合わせて「核兵器のない世界」を追求するとしているのである。結局、米国の意向を無視して動くことはしないということなのであろう。
米国の意向
オバマ大統領は、自分が生きている間は無理かもしれないがとの留保付きではあるが、「核兵器のない世界」を実現したいとしている。そして、広島を訪れて原爆慰霊碑に花束を手向けることはした。けれども、他方では、核兵器の近代化のために巨額の予算を組んでいる。言うことと行動のギャップは極めて大きいのである。
そんなオバマ大統領が、核兵器の先制不使用政策を検討しているという。この最初に核兵器を使わないという政策は、核兵器攻撃に対してのみ核兵器を使用するということと、非核兵器国への核攻撃はしないことを意味しているので、核兵器の役割を低減することになる。
その政策検討について問われた外務省の担当者は、米国と緊密に意見交換をしていきたいと答えるだけで、その政策を支持するとは言わなかった。結局、安倍政権はオバマ政権よりも核兵器依存性が強いのである。
日本政府の態度
私は担当者に、「核兵器のない世界」のために、核兵器国にどのような協力を求めるのか、ステップ・バイ・ステップというけれど、どのような一歩目を踏み出すことになるのかと質問した。担当者は、核戦力の警戒態勢の解除や核情報についての透明性の向上などを例示しながら、NPDI(2010年9月の国連総会の機会に日豪主導で立ち上げた,12か国からなる核軍縮・不拡散分野における地域横断的な有志国グループ)の取り組みがあると答えていた。
そこで、確認してみたところ、2014年4月のNPDI広島宣言は、被爆者の証言は核戦争をしてはならないことを想起させるとか、核兵器の人道的影響に関する議論は国際社会を「結束させる」触媒だなどと指摘しつつ、核兵器の体系的かつ継続的削減や核兵器の役割の低減などを提起している。そして、核兵器の究極的な廃絶に向けた多国間交渉や核兵器国に対する核戦力の削減を求めているのである。日本政府は、このような宣言を採択しながら、今回の勧告には賛成していないのである。
結論
私は、この日本政府の不徹底さにどうにも我慢ならないのである。「唯一の戦争被爆国の政府」を枕詞に置き、核兵器の廃絶をいいながら、現実の行動は、核兵器禁止条約の交渉開始のイニシアチブを取ろうとはしていないのである。むしろ、交渉開始の動きにブレーキをかけているのである。これでは、核兵器廃絶は口先だけであり、「核兵器のない世界」を永遠の彼岸に追いやることになるとの非難を免れないであろう。もちろん、その背景にあるのは核抑止力依存である。
私は、こんな外務省の態度に喝を入れることとする。これは激励の喝ではなく、被爆国の政府として、余りにも情けないとの意味を込めてである。
私たちには、この外務省の態度を変えさせるための努力が求められているのである。