国連総会は、12月23日、核兵器を禁止し、完全廃絶につながるような法的拘束力のある措置(「核兵器禁止条約」)について交渉する会議を招集することを決議した。賛成113、反対35、棄権13という票数である。核兵器が使用されれば、壊滅的な非人道的事態が発生することになるので、それを避けるための根本的な方策は核兵器をなくすことであるとする潮流が多数を占めたのである。核兵器国のうち、中国・パキスタン・インドは棄権、北朝鮮は欠席、その他は反対である。日本も反対票を投じでいる。
この結果、2017年3月27日から31日、6月15日から7月7日の2会期にわたって、「核兵器禁止条約」についての交渉が行われることになる。決議は、加盟各国に参加を呼び掛けるだけではなく、市民社会(NGO)にも参加と貢献を求めている。国連において「核兵器禁止条約」の交渉が開始されることは、「核兵器のない世界」に向けて、新たな一歩が踏み出されることを意味している。私たちは、この会議の成功のために貢献しなければならない。
しかしながら、この交渉が成功するかどうかは決して予断を許さない。なぜなら、核兵器国や核兵器依存国は、この交渉に消極的どころか、妨害工作に出ることが予測されるからである。ロシアのプーチン大統領は、「戦略的核戦力の能力を強化する必要がある」としているし、トランプ次期米国大統領は、「世界が分別を取り戻すまで、米国は核戦力を強化、拡大する」としている。核兵器の使用を排除しないとしているトランプに「分別」を説かれたくないと思うし、プーチンは、クリミヤを併合するときに「ロシアが核兵器国だということを忘れるな」と恫喝した男であるということも忘れたくない。
現在、世界には約1万5千発の核兵器があるとされているが、そのうちロシアは7300発、米国は7000発を保有している。この2カ国の政治指導者には核兵器廃絶など全く眼中にないのである。そして、米国は、この国連決議に反対するよう、NATO加盟国や日本など同盟国に働きかけたのである。
もともと日本は、核兵器禁止条約制定を呼び掛ける国連決議に棄権してきたけれど、ここにきて反対の姿勢を明確にしたのである。この態度変更に米国の影響がどの程度あったかはともかくとして、唯一の戦争被爆国を標榜する日本政府が、「核兵器禁止条約」の交渉開始に反対しているのである。
その反対の理由は、核兵器廃絶は核兵器国の賛成がないと不可能なのだから、核兵器国の賛成を得られるようにステップを踏むべきである。日本は、核兵器国と非核兵器国の懸け橋として核なき世界の実現に努力する。などとどいうものであるが、根本的には、日本の安全保障は最終的には米国の「核の傘」に依存しているので、米国の手を縛るようなことはしないという政策選択(核抑止)に理由があるのである。
国際人道法は、無差別兵器の使用や、残虐な兵器の使用を禁止している。1963年の東京地裁「原爆裁判」判決は、米国の原爆投下は国際法違反であるとしているし、1996年の国際司法裁判所の勧告的意見は、核兵器の使用や使用の威嚇は、一般的に違法であり国家存亡の危機に際しての使用については違法とも合法とも言えないとしている。この勧告的意見は、核兵器使用の違法性を阻却する事態を認めてはいないことに着目しておきたいと思う。この様に、核兵器の使用は違法であるとの法的見解は既に存在しているのである。国際人道法は、武力の行使が正当かどうかとは別に、害敵手段として禁止される方法や手段に関する規範である。自国の安全保障のために、核兵器を使用することが許容されるとする見解は、国際人道法の存在と到達点を無視するものといえよう。そして、使用が禁止される兵器の開発、製造、実験、保有などを違法とすることは理の当然であるし、その廃絶が求められなければならない。
今、日本政府に求められていることは、トランプやプーチンに振り回されることではなく、「核兵器が再び、いかなる状況下においても使用されないことに、人類の生存がかがっている。」とする2015年の国連総会の決議を想起し、一刻も早く「核兵器禁止条約」の交渉を進め、「核兵器のない世界」の実現に貢献することである。
私たちに求められていることは、日本政府の姿勢を転換することと、核兵器の禁止とその廃絶のための「核兵器禁止条約」制定のため運動である。「ヒバクシャ国際署名」の成功は、その運動の重要な構成要素となるであろう。