親愛なる国際反核法律家協会(IALANA)のボードメンバーおよびIALANA関係者の皆さん。何点かの新情報を報告いたします。本稿(1)の終わりでも触れるように、この度のオスロ会合から生じている戦略的な諸問題について特別な注意が向けられなければなりません。
(1) 私は、2013年3月4日から5日にノルウェー政府主催で開催された核兵器の人道的影響に関する国際会議(オスロ会議)と、これにあわせ、オスロで同月2日から3日に開催された核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の市民社会フォーラムの両会合に参加しました。市民社会フォーラムには、アラン・ウェアー(Alyn Ware)、山田寿則ら日本反核法律家協会(JALANA)の代表団、ジャッキー・カバソ(Jackie Cabasso)らが出席しました。核政策法律家委員会(LCNP)とIALANAはICANの構成団体なのですが、これまで中心的な関与やリーダーシップを担ってはきませんでした。私は、同月7日のICANのキャンペーンナーの会合にも参加してICANの動向をより深く理解することができました。
政府間会合であるオスロ会議では、127か国の国家代表たちが、核爆発の影響のありのままの評価、そしてその影響により、人道的な援助が提供不可能になるという事実を知ることになりました。会議では、国連機関である国連開発計画(UNDP)の国連人道問題調整事務所(UN OCHA)が都市部で核爆発が生じた際の生存者、すなわち、爆発、熱、放射線や火災旋風などの現象により直ちに死亡に至らなかった数十万ないし数百万の生存者への国際援助が十分には程遠いものになるであろうことを初めて確認しました。また、ノルウェー、ルーマニアなどの諸国からの報告者や国際赤十字の関係者らは、化学物質、生物物質や放射性物質の放出を含む事故への対処を計画しているし、核爆発の事態が生じたとしても最善を尽くすものであるが、これは、地震や洪水などの現象で想定される生存者への援助能力を超えるものになるだろうと説明しました(訳注①)。複数の核爆発には、国内機関と国際機関とをあわせても完全に対処することはできないと思われます。
さらに、気候学の専門家は、都市部での数十発、あるいはそれ以上の核弾頭爆発を含む核の応酬が生じた際には、煤煙の循環が引き起こされることで地球冷却が生じることになり、大規模な飢饉につながる農業生産力の低下が発生すると説明しました。これらの情報は、会議に参加した外交官らにとって新鮮で、かつ衝撃的なものでしたが、彼らは注意深く耳を傾け、核兵器を世界から廃絶することを求める誓いを新たにしたのです。閉会前に、メキシコが出来るだけ早期にオスロ会議のフォーローアップ会議をメキシコで開催すると発表しました(おそらくは今年の後半頃になるでしょうか)。
会議に参加した核兵器保有国はインドとパキスタンの2か国のみでした。核兵器を保有する安全保障理事会の5常任理事国、すなわち、アメリカ、イギリス、中国、フランス、ロシアは、揃って会議への出席を見合わせました。3月5日のジュネーブ軍縮会議において、これら5か国は、オスロ会議が核のリスクを減少させる現実的な「ステップ・バイ・ステップ」のアプローチを阻害するとの個別声明を出しています(注1)。米国大使のローラ・ケネディ(Laura Kennedy)は次のように述べています。合衆国は核爆発の恐るべき影響をよく承知しているし、「核セキュリティおよび不拡散レジームを強化しつつ、核兵器の備蓄を減少させる現実的なステップに我々の努力やエネルギーを集中する」ことで、このような事態を回避することを追求しているのだ、と。この主張はまったく説得力を持たないものです。ステップ・バイ・ステップのアプローチでは、このような成果を得ることはほとんどできないでしょうし、いずれにせよ、核爆発の人道的帰結に関しての強調は、核兵器を管理・廃絶するための部分的アプローチと包括的アプローチとの両者を補完するものなのです。
ICANの市民社会フォーラムのプログラムについては<http://www.goodbyenuk.es/programme>のリンクを参照してください(訳注②)。市民社会フォーラムは500人以上の参加者を集め、その中には、多くの若者、発展途上国の人々や、(クラスター爆弾、地雷などの)他の兵器の軍縮キャンペーンの関係者なども含まれており、とても活発な会合となりました。私は、およそ20人が参加した「スピーカーズ・コーナー」というサイドイベントで法的問題について発言しましたが、良質な議論を行うことができました(訳注③)。また、ジャッキー・カバソと私は、3月4日にノルウェー議会においてアラン・ウェアーにより開催されたラウンド・テーブルにも参加しました。
国際的な核兵器廃絶キャンペーンはノルウェー政府と共に緊密に活動し、オスロ会議においても何点かのプレゼンテーションを行いました。ICANは「積極的関与国」(committed states)が核兵器を「禁止」へと導くことになると主張しています。
オスロ会議でのICANの最初のプレゼンテーションにおいて、ノルウェーのICANコーディネーターであるノシズ・バクワ(Nosizwe Baqwa)は次のように述べています。
「いまだに核兵器が明確に違法であると宣言できていないこと、すなわち時代遅れの他の大量破壊兵器とともに核兵器が居座っていることは、我々の集団的な社会的責任を妨げています。積極的関与国がこの過ちを正す時が来ているのです。」
ICANの最終プレゼンテーションにおいては、ICAN共同議長のレベッカ・ジョンソン(Rebecca Jonson)が次のように述べています。
「破滅的な人道的帰結により、核使用または偶発的な核爆発を防ぐことは根源的な義務となります。核兵器の使用および事故に対する最も効果的な保証は、核兵器を禁止し廃絶することです。核兵器が条約で禁止される大量破壊兵器の除外対象のままであることは、国際法の正常な状態ではありません。歴史が示しているのは、まず法的な禁止が一般的に先行するのであって、これが備蓄兵器の撤廃プロセスを促進するということであり、その逆ではないのです。歴史と経験はまた、非合法化された兵器は非正当化されることをも示しています。非合法化された兵器は政治的な地位を失い、生産、近代化、拡散や永続化のために投資される資金や資源を維持することができなくなるのです。」
積極的関与国による〔条約プロセスの〕先行がもたらしうることを示す見解の一つとして、「36条(Article 36)」という団体が出版した『核兵器を禁止する(Banning Nuclear Weapons)』(注2)という書籍の20-23頁を参照してみてください。ここでは、既存兵器の軍縮のすべての側面や核兵器のない世界の維持を目指すモデル核兵器禁止条約のような包括的条約というよりも、初期段階での核兵器国の加入を必ずしも必要とせずに、軍縮・廃絶面での限定された条項を規定することで、核兵器の使用および保有を比較的シンプルな形で禁止する性質をもつ条約を構想しています。
このアイデアの利点は、核兵器を保有する諸国により支配され、またブロックされている国連および核不拡散条約(NPT)〔体制〕による現在の主要構造、すなわち政治的・法的枠組み全体が変化することです。ICANの運営グループには「36条」の代表者が入っています。この団体の名称は、1977年のジュネーブ諸条約第一追加議定書の36条を参照したもので、この条項は、戦争の新しい兵器、戦闘の手段および方法を再検討することを国家に要求しているのです。
非核兵器国〔すなわち積極的関与国〕が先行して条約プロセスを進めていくことについて、オスロ会議の参加国の見解がどのようなものであったのか(つまり、一つのプロセスにするのか、または、どのような、いかなるプロセスにするのかという点)は、諸国の声明からは明確ではないですし、それ以外のプロセスである場合にはどうなのかも、明らかではないように思われます。ただし、多くの政府は、彼らが他のフォーラムでも行っているように、さまざまな用語を用いて、いわゆる完全核軍縮を求めたのです。これらの政府の中で唯一、スイスのみが、初期段階では核兵器国の加入を必要としない条約を締結することについて率直に発言していたように思われます。スイスは、核兵器を禁止するためには国際的な追加文書が必要で、これは、より具体的な軍縮のステップを容易にするために是非とも必要な要素であり、また、漸進的に兵器の正当性を否定し、核兵器のない世界への段階を進めるものであると発言しました。なお、マレーシアは、条約の作成作業は核兵器国を含めずに開始することができるとして、モデル核兵器禁止条約に言及し、他のモデルも存在すると発言しましたが、核兵器国抜きで条約を締結することができるのかについては明らかにしませんでした(もっとも、これは、包括的な条約の概念とは一致しないものと思われます)。
最後に、国際人道法は、過去3年間の国際赤十字による、また昨秋の国連総会においての35か国の共同声明においての各国による発言で、人道的な核軍縮の重要な(もっとも唯一ではないのですが)構成要素とされた事実があるにも関わらず、オスロの両会合においては、意図的に議題の一部とはされませんでした。しかしながら、国際人道法は強調こそされていないものの、国際赤十字の代表や若干の国によりオスロ会議でも言及されました。また、既存の核兵器使用の違法性論と比べると、明示的な使用禁止の必要性を、これまでと同様かあるいはそれ以上に、より強く指摘するものとなっているのですが、上記ICANの最初のプレゼンテーションにおいて、ノシズ・バクワは、次のように説得力のある要素を含む発言をしています。
「しかし、 ただ1発の核兵器による即時的影響は、十分に衝撃的で圧倒的なものです。これは、受け入れ可能な範囲をはるかに超えています。盲目化兵器は非合法化されているのにも関わらず、眩いばかりの閃光は人々の視力を奪います。条約で規制される爆発兵器によって絨毯爆撃は非合法化されているにも関わらず、大規模な爆発は都市を平坦化します。焼夷兵器の都市部での使用は非合法化されているにも関わらず、焼け付くような熱さと広がる火災は、鉄を熔かし、家を巻き込み、そして火災旋風を引き起こし、誰もが呼吸からその空気を吸い込むことになります。そして、これらの影響を受けた生存者は、戦争において毒の使用が非合法化されているにも関わらず、その後も放射性降下物によって毒にさらされ、数日間、または数週間にわたって身体の破壊を被るのです。」
【関連URL】
リーチング・クリティカル・ウィル〔RCW、婦人国際平和自由連盟(WILPF)による核軍縮プロジェクト〕による国際赤十字、各国政府、ICANなどの声明へのリンク
<http://www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/others/oslo-2013/statements>
オスロ会議のさらなる背景について
<http://www.reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/others/oslo-2013>
ノルウェー政府〔外務省〕によるオスロ会議のウェブサイト(プレゼンテーション、声明、議長サマリーなどを含む)
<http://www.regjeringen.no/en/dep/ud/selected-topics/humanitarian-efforts/humimpact_2013.html?id=708603>
ICAN市民社会フォーラムのウェブサイト(サマリー、プレス・ステイトメント、スピーチなどを含む)(訳注④)
<http://www.icanw.org/action/humanitarian-impact-of-nuclear-weapons-4-5-march/#.UThqk9aePsO>
オスロ会議に際してのICANのビデオ・ステイトメント
<http://youtu.be/V7t6BmRzDS0>
(2) リーチング・クリティカル・ウィルの新しい出版物がオスロで配布されました。核爆発の健康、環境、経済、その他の側面を調査した『受け入れがたい被害:核兵器の人道的影響(Unspeakable Suffering― the humanitarian impact of nuclear weapons)』という冊子です。私は、国際赤十字や35か国の共同声明が取り上げた諸規則に焦点を当てた国際人道法の章を担当しています。以下のURLを参照してください。
『受け入れがたい被害:核兵器の人道的影響』のウェブサイト版
<http://www.reachingcriticalwill.org/resources/publications-and-research/publications/7422-unspeakable-suffering-the-humanitarian-impact-of-nuclear-weapons>
ジョン・バロース担当部分
<http://www.reachingcriticalwill.org/images/documents/Publications/Unspeakable/PartIV.pdf>
(3) ベルリン枠組みフォーラム「核兵器のない世界のための条件の創出と枠組みの構築」(2013年2月20日から22日に開催)は大きな成功を収めることができました。このフォーラムについての速報とウェブサイトのURLについては、以下の通りです。
フォーラムの報告内容(要旨)
<http://middlepowers.org/events/Berlin_FF/summary.html>
このフォーラムは、中堅国家イニシアティブ(MPI)と核軍縮・不拡散議員ネットワーク(PNND)とが主催したものです。ピーター・ワイス(Peter Weiss)、ライナー・ブラウン(Reiner Braun)、ルーカス・ウィル(Lucas Wirl)、ジャッキー・カバソ、アラン・ウェアーらが出席しました。
アラン・ウェアーはPNNDの会合の夕食時にテーブル・スピーチを、ジャッキー・カバソは不可逆性(irreversibility)についてのプレゼンテーションを行いました。オットー・ヤッケル(Otto Jaeckel)の話では、ライナー・ブラウンは、2月20日に開催された公式イベントの共同開催者になっているとのことです。
私は、このフォーラムのブリーフィング・ペーパーを執筆し(注3)、また企画委員会を取り仕切りました。このフォーラムはMPI議長に就任した秋葉忠利の最初の公式イベントでしたが、彼は自らの役割をよくこなしていたと思います。
【注】
注1 <http://reachingcriticalwill.org/disarmament-fora/cd/2013/statements>
注2 <http://www.article36.org/wp-content/uploads/2013/02/Report_web_23.02.13.pdf>
注3 <http://middlepowers.org/events/Berlin_FF/Berlin_Brief.pdf>
【訳注】
※ 本稿は、2013年3月16日付でIALANA関係者に向けてEメールで送付されたオスロ会議の報告がIALANAのニュースレター(IALANA News, 2013.No.1, pp.5-8)に再録されたものである。原文については、LCNPのウェブサイト<http://lcnp.org/pubs/IALANA2013/April.pdf>で閲覧することができる。本文中で紹介されたウェブサイトのURLについては2013年6月1日の時点で接続の有無を確認した。リンク切れのURLについては以下の訳注を参照のこと。
① 「ノルウェー、ルーマニアの報告者」は、オレ・ハービット(Ole Harbitz)博士(ノルウェー放射線防護機関)とアドリアナ・バーチュ(Adriana Baciu)博士(ルーマニア原子力規制機関)、「国際赤十字の関係者」は、ピーター・マウラー(Peter Maurer)総裁(赤十字国際委員会)らのこと。また下記の「気候学の専門家」は、報告の内容からするとアイラ・ヘルファウンド(Ira Helfand)博士(核戦争防止国際医師会議(IPPNW))を指しているものと思われる。これらの報告を含めたオスロ会議の詳細については、本文中で紹介されたオスロ会議のウェブサイトを参照のこと。
② 2013年6月1日の時点でこのURLは参照不可。ただし、核兵器廃絶日本NGO連絡会のウェブサイト<http://nuclearabolitionjpn.files.wordpress.com/2013/02/20130205_csf-program-jp.pdf>において、2013年2月4日付でICANから配布されたプログラムの日本語訳を閲覧することができる。また、市民社会フォーラムの概要について、山田寿則「オスロ会議と人道的アプローチ」、本誌75号(2013年)、31-32頁を参照のこと
③ 「スピーカーズ・コーナー」においては、オスロ会議で日本反核法律家協会が配布した「提言集」に基づき、大久保賢一日本反核法律家協会事務局長、山田寿則同理事からも発言がなされた。「提言集」の内容については、本誌75号(2013年)、2‐29頁を参照のこと。なお、JALANAのウェブサイト<http://www.hankaku-j.org/data/index.html>において、ウェブサイト版(日・英)を閲覧することができる。
④ 2013年6月1日の時点でこのURLは参照不可。ただし、ICANのウェブサイト<http://www.icanw.org/campaign-news/norway/oslo-civil-society-forum/>において、「オンライン・レポート」、「プレス・ステイトメント」、「主要スピーカーの氏名」の3点については閲覧することができる。
初出・機関誌「反核法律家」76号(2013年7月)