1945年 | 8月6日 | 広島に原爆投下 | ||||||||||
8月9日 | 長崎に原爆投下 | |||||||||||
8月15日 | 終戦 | |||||||||||
1946年 | 6月 | 岡本尚一弁護士 極東軍事裁判で武藤章(陸軍軍務局長)の弁護 | ||||||||||
1951年 | 松井康浩弁護士登録 自由人権協会に所属 | |||||||||||
1952年 | 4月28日 | 講和条約発効 | ||||||||||
1953年 | 2月 | 岡本弁護士 広島・長崎の全弁護士に「原爆裁判」の呼びかけ郵送。 被爆者を原告とし、米国政府とトルーマンを被告として、原爆投下の国際法違反を明確にし、被った被害の賠償を求める裁判の呼びかけ 動機 歌集「人類」(「原爆裁判」15頁) ・東京裁判の法廷にして想なりし原爆民訴今練りに練る ・夜半に起きて被害者からの文読めば涙流れて声立てにけり ・朝に夕にも凝るわが想い人類はいまし生命滅ぶか 「原爆民訴或問」前文(「原爆裁判」16頁以下) 極東軍事裁判の主任弁護人の一人であった私の念頭にあったのは、「戦勝国側の極めて重大な国際法違反が勝てるがゆえに何らその責任を問われない不公正でありました。しかし私は、講和条約が発効した暁には、戦勝国の指導者から原爆投下についての悔恨の情が披瀝されるであろうと、期待していた。」 「この提訴は、今も悲惨な状態のままに置かれている被害者またはその遺族が損害賠償を受けるということだけではなく、この賠償責任が認められることによって、原爆の使用が禁止されるべきである天地の公理を世界の人に印象づけるであろう。この損害賠償訴訟の可能を世界に示すこと自体が世界の平和に寄与することは疑いない。」 米国の法律家の反応 |
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1954年 | 3月 | この裁判には法律的根拠がない。日米親善に有害である。全面的に反対。ボールドウィン国際人権連盟議長の反応。 | ||||||||||
1954年 | 5月 | 高額な弁護士費用最低二万五千㌦(360円換算で900万円)の要求 米国自由人権協会ロスアンゼルス支部所属弁護士の回答(「戦争と国際法」53頁~54頁) 戦勝国の裁判所で原爆投下の違法性を問う裁判は断念 国内の状況 岡本弁護士の情熱的努力にもかかわらず、彼に心から共鳴する弁護士は少数であり、ともに行動する弁護士は私一人でもいいという状況であった。(松井康浩「戦争と国際法」55頁) 「蟷螂の斧」、「山吹の花は麗しいけれど実を結ばない」(岡本弁護士の理解者・古野周蔵弁護士の追悼の辞・「原爆裁判」18頁) |
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1954年 | 3月1日 | ビキニ環礁水爆実験と被爆 | ||||||||||
1955年 | 4月25日 | 原爆訴訟提起 東京地裁、大阪地裁の裁判は東京に併合
被告国は、原告下田に対して金三十万円。原告多田、原告浜部、原告岩渕、原告川島に対して各金二十万円を支払え。 請求の原因 ・米国は、広島と長崎に原爆を投下した。 ・原爆は人類の想像を絶した加害影響力を発した。 ・「人は垂れたる皮膚を襤褸として屍の間を彷徨号泣し、焦熱地獄なる形容を超越して人類史上における従来の想像を絶した酸鼻なる様相を呈した」 ・原爆投下は、戦闘員・非戦闘員たるを問わず無差別に殺傷するものであり、かつ広島・長崎は日本の戦力の核心地ではなかったのだから、戦力破砕の目的に出たものではなく、闘争心を失わせるための威嚇手段であった。しかも、フランク委員会の勧告を無視して無警告で投下した。この投下は、防衛目的でも報復目的でもないことは明らかである。 原爆投下は、実定国際法に違反する。 ・仮に、原爆投下が戦闘行為であると仮定しても、国家免責規定の適用はあり得ない。実定国際法に違反するのみならず、その加害影響力の性質上、投下は許されないからである。 ・広域破壊力と人体に対する特殊加害影響力は人類の滅亡をさえ予測せしめるものであるから、人類と人類社会の安全と発達を志向希求する国際法とは相容れない。仮に、実定国際法が適用されないとしてもその使用は自然法ないし条理国際法が厳禁するところである。 ・国家免責規定を原爆投下に適用することは人類社会の安全と発達に有害であり、著しく信義公平に反する。 ・米国は平和的人民の生命財産に対する加害について責任を負う。被害者個人に賠償請求権が発生する。 ・対日平和条約によって、日本国民個人の請求権が雲散霧消することはあり得ない。憲法29条3項により補償されなければならない。 ・補償されないということであれば、吉田茂全権たちは、日本国民の請求権を故意に侵害したことになるので、国家賠償法による賠償義務が生ずる。 ・人類の経験した最大の残虐行為によって被った原告らの損害に対して、深くして高き法の探求と原爆の本質に対する審理を行い、その請求を認容していただきたい。 |
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1955年 | 7月16日 | 第1回準備手続き | ||||||||||
1955年 | 10月21日 | 第2回準備手続き 被告国答弁書提出 ・原告の請求を棄却する。 ・原子爆弾の投下と炸裂により多数人が殺傷されたことは認めるが、被害の結果が原告主張のとおりであるかどうか、及び原爆の性能などは知らない。 ・被告らに対する補償義務または賠償義務は否認する。 ・原爆使用が、国際法に違反するとは直ちには断定できない。したがって、原告らに賠償請求権はない。 ・原告の主張する権利は、各国の実定法に基礎を有することなく、したがって、権利の行使が法的に保障されていないもの、権利として実行されるべき方法ないし可能性を備えないものである。 ・講和条約によって請求権が認められるとしても、それは講和条約によるものである。敗戦国の国民の請求が認められることなど歴史的になかった。原告らの請求は、法律以前の抽象的観念であるというだけではなく、講和に際して、当然放棄されるべき宿命のもの。 ・原告が請求権なるものを有するとしても、それは何ら権利たるに値しない抽象的観念でしかない。そのような観念の存在や侵害を前提とする請求は失当である。 ・原告らの権利は、平和条約によって、はじめて実現できなくなったものではない。(元々ないのだ。) ・憲法29条は、これによって直ちに具体的補償請求権が発生するわけではない。具体的立法が必要だ。 ・国は、原告らの権利を侵害していない。平和条約は適法に成立しているので、締結行為を違法視することはできない。被告に国家賠償義務はない。 ・被告は、被爆者に対して深甚の同情を惜しむものではないが、慰藉の道は、他の一般戦争被害者との均衡や財政状況等を勘案して決定されるべき政治問題である。 |
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1955年 | 10月22日 | 求釈明 ・被告は原爆投下が国際法に違反することを否定しているが、1945年8月10日、日本政府は、スイス政府を通じて、米国に対して原爆投下が国際法に違反するとの抗議を行い、非人道的兵器の使用放棄を申し入れている(岡本弁護士は、「世紀に残る大抗議」としている)。この抗議と矛盾するではないか。 ・被告は、原告の主張は法的権利ではないというが、それは的外れである。 ・「講和に際して当然に放棄される宿命」とは法律的にどのような意味か。 |
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1956年 | 2月8日 | 第4回準備手続き 被告の釈明 ・当時交戦国として新型爆弾の使用の放棄を求めたが、それは、新型爆弾の使用が戦時国際法の原則及び人道の根本原則無視したものであったからである。しかし、交戦国という立場を離れて客観的に眺めると、原子兵器の使用が国際法上違法であると断定されているわけではない。 ・原告は、原爆投下を国内法上の不法行為としているようだが、原爆投下は害敵手段としてのものであり、国内法の不法行為として取り上げられる問題ではない。原告の主張は的外れである。 ・古来、敗戦国が戦勝国に賠償を請求した例はない。戦勝国に国際法違反があった場合も請求した例がない。賠償請求権が放棄される例もある。これは国際慣例である。よって、「放棄される宿命である。」 |
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1956年 | 9月28日 | 第9回準備手続き 岡本弁護士最後の出廷 全て松井弁護士の責任となる。 |
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1958年 | 4月5日 | 岡本弁護士死去 | ||||||||||
1959年 | 11月19日 | 第27回準備手続き終了 | ||||||||||
1960年 | 2月8日 | 第1回口頭弁論 原告安井郁鑑定人・原告本人申請 被告横田喜三郎鑑定人申請 |
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1961年 | 5月9日 | 第3回口頭弁論 被告横田喜三郎に代え(横田は最高裁長官となる)、高野雄一を鑑定人申請 田畑茂二郎を追加申請 |
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1961年 | 9月26日 | 第6回口頭弁論 被告国高野雄一鑑定書提出 ・その非人道性が非常に大きくても、同時にその軍事的効果が著しく大きいならば、国際法上一般に不法とされる基礎を十分に持たない。 ・広島・長崎が無差別爆撃を認められる状態ではなかったので、原爆投下は実定国際法に違反するとの判断に傾く。 |
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1962年 | 4月5日 | 被告国田畑茂二郎鑑定書提出 ・広島も長崎もいわゆる無防守都市であって、軍事目標・非軍事目標の区別なしに、あらゆるものを破壊する効果をもつ原爆を使用することは当然違法と断定せざるを得ない。 ・威嚇の目的で非戦闘員を爆撃することは許されない。 ・戦争法は、軍事的必要性と人道的要請との調和の上に成り立っている。したがって軍事的必要を無視することはできないが、それを超えて不必要な害を与えることは戦争法規の基調にそむく。広島・長崎への原爆投下はこの原則にも反して違法である。 |
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1962年 | 11月7日 | 原告安井郁鑑定書提出 ・国際法の直接の規定を待つ必要がないほどに、新兵器の非人道性が甚だしい場合がありうる。原爆投下は、戦争の必要が人道の要求に一歩譲るべき国際法の原則に違反する。 ・国際法は交戦者と非交戦者を区別している。これは戦争の惨害が非交戦者に及ばないようにするためであり、国際法のもっとも重要な原則である。原爆使用は違法である。 |
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1963年 | 1月29日 | 安井教授証人調べ ・原爆の使用を禁止するルールはない。しかし、国際法のプリンシプルの一つである「人道の原則」に違反する。 ・被爆者は、米国およびトルーマンに対して生命・身体・財産を侵害されたことによる賠償請求権をもつ。その権利の行使は日本政府がなすべきものである。被爆者個人が権利実現の手段がないからと言って、権利性がないということはできない。 ・国際法違反が行われた場合、それに責任が生ずることは確立された国際法の原則。米国はもとより実行行為者であるトルーマンに責任を負うべきである。ヘーグの各条約、空戦法規案、ニュルンベルグ裁判、東京裁判、ジェノサイド条約などの検討から導くことができる。 ・平和条約19条a項は、日本国と被爆者の双方が米国とトルーマンに対する請求権をすべて放棄したと読むべきである。憲法29条3項で補償すべきかどうかは、鑑定すべき分野ではないが、補償すべきものと思う。また、未補償のまま放置することは民法上の不法行為の問題になるかもしれない。 |
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1963年 | 3月5日 | 最終弁論 | ||||||||||
1963年 | 12月7日 | 東京地裁判決 裁判長裁判官古関敏正 裁判官三淵嘉子 裁判官高桑昭 ・米軍による広島・長崎への原爆投下は、国際法が要求する軍事目標主義に違反する。かつ原爆は非人道的兵器であるから、戦争に際して不必要な苦痛を与えてはならないとの国際法の基本原則に違反する。 ・しかし、国際法上の権利をもつのは、個別の条約で認められていない限り、国家だけである。被爆者は国内法上の権利救済を求めるしかない。 ・日本の裁判所は米国政府を裁くことはできない。 ・米国法では、公務員が職を遂行するにあたって犯した不法行為については賠償責任を負わないのが原則とされている。 ・結局被爆者は、国際法上も国内法上も権利をもっていない。対日講和条約で全権団が権利を放棄しても、被爆者には何の影響も与えていない。(元々権利がない。) ・被爆者が十分な救済策をとられなければならないことはいうまでもないが、それは裁判所の職責ではない。政治の貧困を嘆かざるを得ない。 |