Human Rights, Future Generations and Crimes in the Nuclear Ageに参加して
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)弁護団
あぶくま法律事務所
弁護士 関根 未希
私は、福島県福島市の生まれです。震災の年に司法試験に合格し、2012年12月から福島市で弁護士として活動しています。
2017年9月にスイスのバーゼルにおいて開催されたHuman Rights, Future Generations and Crimes in the Nuclear Ageに参加してきましたので、その報告内容について原稿を寄稿させていただきます。
私がこの会議に参加することになったのは、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(生業訴訟)の弁護団に所属していたことがきっかけでした。私が福島の被害について報告し、生業訴訟の意義と運動については同じ弁護団の中瀬奈都子弁護士が報告されました。この会議への参加と英語でのプレゼンテーションは、とても貴重な経験となりました。
福島の原発事故による被害がいまだ終わっていないことは明らかですが、報告の内容によっては福島に不当な偏見をもたらしてしまうのではないかという悩みもあり、どこまでをお話しすべきかとても悩みました。その結果が今回の報告内容ということになりますが、私たちの報告に対して参加者から多数の質問や意見が集中しました。
原発事故の被害にあった方々は、故郷や人間関係、地域文化などのさまざまなものを失い、分断され、灰色の未来しかみえないような感覚を持ちながら、それでもなお懸命に今を生きているのだと思います。今回の会議での報告によって福島の被害を少しでも理解していただき、廃炉や事故の再発防止に少しでもつながれば幸いです。
以下、日本語版の報告内容となります(実際にはパワーポイントで写真等も見ていただいていますが、写真は省略させていただきます)。
1 2011年3月11日午後2時46分、日本の北部でM9.0の地震が発生しました。大地震は、大津波を引き起こしました。
そして、大津波は原子力発電所にも到達しました。
東京電力福島第一原子力発電所では全電源が喪失し、原発事故が発生しました。この事故により、福島第一原発からは大量の放射性物質が拡散しました。
2 原発事故によって福島第一原発から20キロ圏内の全住民は避難を強制されました。20キロ圏外でも地域によっては避難を強いられた地区があります。彼らは、避難所での生活を余儀なくされました。
2011年3月15日の福島県福島市の放射線量は、最大毎時20.40μSvでした。
福島第一原発から20キロ圏内は長い間自由な立入が制限されました。
3 そのため、福島の人々は、すぐに復興作業を進めることができませんでした。
福島県の浪江町で畜産業を営んでいた男性は、原発事故により、自宅と牛舎に立ち入ることができなくなりました。立ち入りができるようになったのは6月のことです。大切に育ててきた牛たちは、ほとんどが餓死していました。
4 現在も、多くの人たちが故郷に帰れずに、福島県内や全国各地で避難生活を続けています。また、自治体からの指示によってではなく、放射能から身を守るために自主避難をした人々もいます。福島県から県外に避難した人は、2017年7月時点で35,166人います。
避難をした人々は、多くの問題や不安を抱えながら避難生活を送っています。さらには、仕事で離れることのできない父親は福島に残り、母親と子どもだけが避難しているご家族も多くいます。家族がバラバラになったことで、離婚などの家族の問題も発生しています。
5 逆に、仕事などさまざまな理由から、福島県から避難できない人たちもいます。福島に残った人たちも苦しんでいます。
6 こうした状況の中、福島県内では、公共施設にモニタリングポストが設置され、放射線量が測定されています。
7 また、放射線量が高い地域を中心に除染作業が行われています。ご覧いただいているのは福島市・郡山市の様子です。福島市や郡山市は、福島県内で比較的多くの人口を抱える都市です。
8 除染作業によって放射線量は徐々に低下してきたため、避難先から帰還した人も多くいます。また、避難指示が解除された区域もあります。しかし、日常生活を送る場所に放射線量を多く含む土などが大量に積み上げられた状態となっています。子どもを持つ親の不安は大きいです。
9 多くの子ども達は、原発事故直後、放射性物質によるリスクを減らすため、屋外活動を制限されました。そのため、福島の子ども達は肥満の傾向にあります。2012年、2013年、2014年にそれぞれ、多くの年齢で、肥満率が日本で1位になりました。
10 2014年4月頃からの福島県の健康調査で、1回目の検査では甲状腺に異常がないと判断されていた子どものうち4人が甲状腺がんの疑いがあると診断されています。低線量放射線被ばくの具体的健康影響については未解明な点が多く、甲状腺調査での異常を直ちに被ばくの健康影響と見るのは必ずしも適当ではありませんが、人々は、被ばくの健康影響を内心で心配しながら生活することを余儀なくされています。このような生活を強いられること自体が原発事故被害であると考えています。
11 原発事故の発生から6年が経過しました。
福島は、さまざまな努力をし、復興が進んでいます。
しかし、原発事故の被害はいまだ終わってはいません。
初出・機関誌「反核法律家」94号(2018年2月)