韓国と北朝鮮の首脳会談が開催されることになった。私は、このことを歓迎する。なぜなら、会談が継続している間は、軍事衝突は回避されると思うからである。もし、朝鮮半島で軍事衝突が起きれば、単に朝鮮半島の民衆だけではなく、私たちの生活にも大きな影響が及ぶことは間違いない。米軍基地が置かれ、発進基地となっている日本に、北朝鮮が何らかの攻撃を仕掛けてくることは避けられないからである。しかも最悪の場合には、核攻撃や原発への攻撃ということになるであろう。他方、国内においては、在日朝鮮人に対するジェノサイドが起きるであろう。私たちが被害者となり加害者になるのである。これら予測は決して荒唐無稽ではない。少しだけ想像力を働かせればいいだけである。だから、軍事衝突は絶対に避けなければならない。それに代わる最も有効な手段は、政治的リーダーの直接的対話である。戦争は政治的対立の暴力的解決だからである。
ところが、この首脳会談を白眼視する勢力は、日本政府以外にも存在するのである。例えば毎日新聞の3月7日付社説である。社説は、「対話は必要だが、核問題解決につながるものでなければならない」、「これまでの金委員長の言動からすれば、素直に受け取るのは難しい」、「北朝鮮はこれまでも約束を破り続けてきた」、「非核化に向けた具体的な行動が必要だ。実際に動くまで、圧力をかけ続ける必要がある」、「トランプ政権は最大限の圧力をかけることによって、北朝鮮を非核化の協議に引き出そうとしてきた」、「文政権は日米と連携して、慎重に進めて欲しい」、「非核化につながる会談でなければ禍根を残すだけだ」と展開している。要するに、会談は、北朝鮮の核放棄につながらなければ意味がない、北朝鮮は信用できないから、非核化に向けた具体的に行動をとるまで圧力をかけ続けよう、そのために韓国は先走るのではなく、日米と歩調を合わせろ、という主張である。
この主張の特徴は、まずは、北朝鮮に核を放棄させろ、それまで会談などするな、最大限の圧力をかけ続けろというということにある。その圧力の中には、米国による核兵器の使用や先制攻撃も含まれているのである。なぜなら、主張は、米国の最大限の圧力が非核化のために有効だとしているからである。米国は「力による平和政策」を採用し、核兵器使用の敷居を低くしようとしている。そして、トランプ大統領は、1時間のうちに3回、「米国は核兵器を保有しているのに、なぜ使用できないのか」と外交専門家に質問する人である(毎日新聞1月30日付夕刊)。
この社説は、日米の最大限の圧力が朝鮮半島での軍事衝突を誘引するかもしれないということを完全に無視している。そして、その衝突が核兵器の使用に至るかもしれないということも視野の外なのである。更には、米国の核兵器使用の威嚇には何も触れずに、北朝鮮にだけ、核兵器を捨てろと迫っているのである。「俺は持つおまえは捨てろ核兵器」という論理である。
毎日新聞が北朝鮮にどんな恨みを持っているか知らないけれど、南北朝鮮の首脳が対話をしようとしているときに、北朝鮮にだけ核武装放棄を迫り、そうでなければ軍事衝突も容認するかのような主張を展開するのは、単に無責任というだけではなく好戦的と評すべきであろう。これが社論であるとすれば、毎日新聞も地に堕ちたものである。