「核兵器による威嚇及び核兵器の使用は生命に対する権利に反する」国連の人権委員会が言及
2018年11月7日
ダニエル・リエティカー
(※)
(訳:篠原翼
(※))
原文出典:
https://safna.org/2018/11/07/threat-and-use-of-nuclear-weapons-contrary-to-right-to-life-says-un-human-rights-committee/
〔 〕は訳者による注記。
はじめに
2018年10月30日に,1966年市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下,自由権規約)の実施を担う国連の人権委員会(以下,自由権規約委員会)は,生命に対する権利(自由権規約第6条)に関する一般的意見第36号を採択した。それは,多くの観点において注目すべき文書であり,核軍備管理と人権とを架橋する新しい具体例である。第66段落において,自由権規約委員会は,大量破壊兵器(WMD),特に核兵器による威嚇及び核兵器の使用が,生命に対する権利と相容れないことを考慮しており,また,核軍縮及び核不拡散の分野における締約国の義務について繰返し述べている。
核兵器の使用について議論する際に最も明確な人権は,生命に対する権利である。国際司法裁判所(ICJ)は,1996年の核兵器による威嚇又は核兵器の使用の合法性に関する勧告的意見において,武力紛争時における生命に対する権利の適用可能性を確認し,さらに,何が「生命の恣意的な剥奪」に該当するかに関する審査は,武力紛争を規制する国際法,特に人道法の観点から決定されなければならないと述べた(※1)。
一般的意見第36号は,32頁にわたる詳細な文書である。たとえもし他の段落も確かに関連しているとしても,ここでは,WMD,特に核軍縮に関連する段落についてのみコメントする。
生命に対する権利に関する従来の一般的意見と一般的意見第36号の準備作業
自由権規約委員会は,生命に対する権利に関する2つのいわゆる一般的意見をすでに公表していた。これらの一般的意見では,自由権規約の規定とある種の権利に関して締約国に課された義務とについての自由権規約委員会による有権解釈が検討されている。
生命に対する権利について,自由権規約委員会は,1982年に一般的意見第6号を採択し,1984年にはより関連性のある一般的意見第14号を採択した。そこでは,以下のように判断している。
「4. 核兵器の設計,実験,製造,保有及び配備は,今日の人類が直面している生命に対する権利への最も巨大な脅威であることは明白である。この脅威は,そのような兵器の実際の使用が戦争時だけでなく,人及び機械による過誤又は故障を通じて引き起こされ得る危険によってその度を増している。
6. 核兵器の製造,実験,保有,配備及び使用は,禁止されるべきであり,人道に対する罪とみなされるべきである。
7. したがって,委員会は,人類の利益のために,自由権規約の当事国であるかを問わず,すべての国家に対して,この脅威を世界から取り除くための緊急の処置を,単独で及び合意によって,執ることを求める。」
自由権規約委員会は,核兵器の問題について言及することによってその権限を越えたとして,一定の締約国,特にフランスによって,非常に強く批判されていた。数年前に,自由権規約委員会は,最終的に一般的意見第36号となった生命に対する権利に関する新しい一般的意見の検討を開始した。第1草案の以下の段落は,大量破壊兵器に充てられたものである。
「核兵器を含む大量破壊兵器による威嚇又はその使用は,生命に対する権利とは一見したところ(prima facie)相容れない。締約国は,大量破壊兵器の拡散を停止させ,それらの開発及び使用を防止するための全ての実現可能な措置をとらなければならない。」
この提案は,多くの理由から不完全で不十分であった。したがって,筆者は,核政策法律家委員会(LCNP)のジョン・バロースと共著で,ロジャー・S・クラーク及びエミリ・ゲラールから有益な示唆を受けて,スイス核軍縮法律家協会(SLND)を代表して意見書を提出した(※2)。我々は,特に,核不拡散条約(NPT)第6条及び慣習国際法に従って核兵器廃絶に関する交渉を誠実に追求し完結させる義務に全く言及していない草案の欠点を批判した。加えて,草案では大量破壊兵器による威嚇又はその使用が生命に対する権利と「一見したところ」相容れないとされていることを想起しつつ,我々の見解からすれば,核兵器並びに他の大量破壊兵器のあらゆる使用が,自由権規約第6条に基づいて禁止される生命の「恣意的な剥奪」となるだろうと主張した〔”prima facie”とは,最終的判断を留保した申立てに基づく一応の判断を意味するので,第1草案の表現ではあらゆる核使用・威嚇が生命に対する権利と抵触することは示されていない〕。以上の理由及び他の理由から,我々は当該段落に関する具体的で新しい文案を提起した。
「核兵器を含む,大量破壊兵器による威嚇又はその使用は,自由権規約第6条の意味における生命の現実の又は潜在的な『恣意的剥奪』に相当し,結果として,生命に対する権利の尊重と相容れない。締約国は,いかなる例外もなく,現行の義務,即ち①大量破壊兵器を保有及び使用しない義務,②それら兵器の拡散,開発及び使用を防止する義務,並びに③あらゆる点での核軍縮に関する交渉を誠実に追求しかつ完結させる普遍的な法的義務の所与の期限内での早期履行を含む,それら兵器の地球規模での廃絶を実現する義務,これら3つの義務の遵守を確保するためにすべての実現可能で合法的な措置をとらなければならない。」
大量破壊兵器についてより精巧で適切である第2草案は,2017年に提出され,以下のように記述された。
「実際に無差別であり,壊滅的規模で人命を破壊することができる,核兵器を含む大量破壊兵器の[威嚇]又は使用は,生命に対する権利の尊重と相容れず,国際法に基づく犯罪に相当し得る。締約国は,その国際義務に従った必要なあらゆる措置であって,非国家主体による大量破壊兵器の取得を防止するための措置を含む,これら兵器の拡散を停止させる措置,これら兵器の開発,生産,実験,備蓄及び使用を差し控える措置,並びに既存の備蓄を廃棄する措置をとらなければならない。締約国はまた,厳重かつ効果的な国際的管理の下における核軍縮の目的を達成するために誠実に交渉を追求する(及び自らの生命に対する権利が大量破壊兵器の実験又は使用によって否定的影響を受けた被害者に対する十分な補償を与える)締約国の国際的義務を遵守しなければならない。」
2017年10月5日の再提出によって,我々は,上記の提示に一般的な満足を示し,自由権規約委員会に対して,本文における「威嚇」の概念を維持するよう強く主張した(※3)。我々は,我々の観点からは,核実験又は核兵器使用の被害者の権利に関する最終文は有用であり,結果として,維持されるべきであることを注記した。
2018年10月30日,一般的意見第36号の最終草案が自由権規約委員会によって採択された。大量破壊兵器,特に核兵器に充てられた条項は,第66段落となり,以下のように記述された(参照及び脚注は省略)。
「実際に無差別的であり,壊滅的規模で人命の破壊の原因となる性質を有する大量破壊兵器,特に核兵器の威嚇又は使用は,生命に対する権利の尊重と相容れず,国際法に基づく犯罪に相当し得る。締約国は,その国際義務に従った必要なあらゆる措置であって,非国家主体による大量破壊兵器の取得を防止するための措置を含む,これら兵器の拡散を停止させる措置,これら兵器の開発,生産,実験,取得,備蓄,売却,移譲及び使用を差し控える措置,既存の備蓄を廃棄する措置並びに偶発的な使用に対する適切な防護措置をとらなければならない。(中略)締約国はまた,その国際義務であって,厳重かつ効果的な国際管理の下における核軍縮の目的を達成するために誠実に交渉を追求する義務(中略)及び自らの生命に対する権利が大量破壊兵器の実験又は使用によって否定的影響を受け又は受けている被害者に対して,国際責任の諸原則に従って,十分な補償を与える義務を尊重しなければならない。(後略)」
一般的意見第36号に関する予備的所見
筆者は,この採択された草案が非常に画期的であり価値あるものであると考えており,それについては,後に詳述する。ここではいくつかの簡潔な所見に限定する。
まず,自由権規約委員会は,大量破壊兵器,特に核兵器の実際の使用だけでなく,これら兵器による威嚇もまた生命に対する権利と相容れないと述べている。これは,とりわけ,核兵器禁止条約(TPNW)第1条dに規定されている中核的禁止を反映している。ここでは,かかる兵器を使用すること及び使用するとの威嚇を締約国に禁止している。両条項は,核兵器による威嚇に反対する力強い声明である。軍事上及び安全保障上の態勢における現在までの数十年もの核兵器への依存では威嚇が中心であったことに鑑みると,これら2つの条項は,関連する巨大な危険性を考慮して,「核抑止」を国際法とコモンセンス(良識)に反するものであるとして非正当化する際の重要なツールとなる(※4)。核抑止の非正当化は,地球規模での核軍備廃絶達成の成功には不可欠である(※5)。
第2に,人権委員会は,核兵器を実際に無差別的であり,かつ壊滅的規模で人命を破壊する原因となる性質を有しているものとみなしており,したがって,生命に対する権利と相容れないとしている。1996年勧告的意見において,ICJは,「核兵器の破壊力は,空間的にも時間的にも封じ込めることはできない」と述べていた(※6)。
同様に,TPNW前文は,以下のように述べている。
「核兵器の壊滅的な帰結は,十分に対処できないものであること,国境を越えること,人類の生存,環境,社会経済的な発展,世界経済,食料安全保障及び現在と将来の世代の健康に重大な影響を与えること,並に女性及び少女に不均衡な影響(電離放射線の結果としての影響を含む。)を及ぼすことを認識し」(第4項)
第3に,この一般的意見は,核兵器の使用及び核兵器による威嚇が国際法に基づく犯罪に相当し得ると考えている。筆者は,ローマ規程〔国際刑事裁判所規程〕上の戦争犯罪及び人道に対する罪に関する諸規定がなぜ核兵器の使用に影響し始めるかもしれないのかについて別稿で説明した(※7)。筆者はまた,ローマ規程第6条で定められている諸集団のうちの一つを全体的又は部分的に破壊する特定の意図を示している場合には,核兵器の使用はジェノサイドに相当し得ると考える(※8)。
第4に,自由権規約委員会は,締約国が,その国際義務に従ったすべての必要な措置であって,①非国家主体による大量破壊兵器の取得を防止する措置を含む,大量破壊兵器の拡散を停止させる措置,②大量破壊兵器の開発,生産,取得,備蓄,売却,移譲及び使用を差し控える措置,③既存の備蓄を廃棄する措置,並びに④偶発的使用に関する適切な防護措置を講じなければならないと繰り返し述べている。これは,核兵器については,NPT,包括的核実験禁止条約(CTBT)及びTPNW(発効した場合であるが)から生じる義務を想起させるにあたり有益である。さらに,ここには,諸国による核兵器の意図的使用は人類と将来世代を脅かすいくつかの可能性のあるシナリオの正にそのひとつであり,その結果として,核兵器が決して使用されないことを保証する唯一の方法が核兵器の完全な廃絶にあるとする重要な声明が含まれている。そのような言葉は,TPNW前文においても含まれている。
「核兵器のいかなる使用もそれがもたらす壊滅的な人道上の帰結を深く憂慮し,したがって,いかなる場合にも核兵器が決して使用されないことを保証する唯一の方法であり続けているところの核兵器兵器を完全に廃絶する必要性を認識し」(第2項)
「核兵器の継続的な存在によってもたらされる危険(事故,誤算又は計画によるあらゆる核兵器の爆発によりもたらされるものを含む。)に留意し,これらの危険はすべての人類の安全に関わり,すべての国が核兵器のあらゆる使用を防止する責任を共有していることを強調し」(第3項)(※9)
第5に,自由権規約委員会はまた,締約国が,厳重かつ効果的な国際的管理の下における核軍縮の目的を達成するために,誠実に交渉を追求する締約国の国際的義務を尊重しなければならないことを想起している。核兵器による威嚇又は核兵器の使用の合法性に関する勧告的意見において,ICJは全員一致で以下のように判断した。すなわち,「厳重かつ効果的な国際的管理の下におけるあらゆる点での核軍縮に至る交渉を誠実に追求しかつ完結させる義務が存在する」と(※10)。この義務は,核兵器を保有しているか否か及びNPTを批准しているか否かにかかわりなくすべての国家に課されている。さらに,信義誠実の基本的法原則は,不合理な遅延なく,〔交渉〕参加国によって定められた期限内でのその義務履行を求めている。核軍縮の分野における数十年もの長い年月の停滞期の後に,第6条を履行するための新しい試みが,市民社会と協力する進歩的な諸国によってなされた。それは,核兵器の人道上の影響に関する一連の会議とともに2013年から開始され,ついには2017年7月のTPNWの採択へと至った。TPNW第4条では「核兵器の完全な廃絶に向けて」という表題を有する軍縮条項が規定されている。
第6に,この一般的意見はまた,諸国には,自らの生命に対する権利が,大量破壊兵器の実験又は使用によって否定的影響を被り又は被っている被害者に対して,国際責任の諸原則に従って,十分な補償を与える義務があることを想起している。これは,2001年の国際法委員会による条文草案(※11)において今日法典化されている国際違法行為についての国家責任を想起させるために重要である。これは,他の国家において又は他の国家に対して,核兵器を実験した又は使用した国家の場合に適用することができる。さらに,自由権規約第2条3が,効果的救済を被害者に提供する義務を締約国に課していることを想起することが重要である(※12)。加えて,2005年12月16日に採択された国連総会決議60/147〔の付属文書〕第VII条〔11項〕は,「被った損害のための十分,効果的でかつ迅速な賠償」に対する国際人権法の重大な違反および国際人道法の著しい違反に関する被害者の権利を規定している(※13)。
〔この義務の〕範囲の問題については,被害者援助及び環境回復を規定するTPNW第6条を想起することが重要である。その第1項は,被害者援助を扱い,以下のように規定している。
「締約国は,核兵器の使用又は実験により影響を受けている自国の管轄の下にある個人について,適用可能な国際人道法及び国際人権法に従い,年齢及び性別に配慮した援助(医療,リハビリテーション及び心理的な支援を含む。)を十分に提供し,並びにこれらの者の社会的及び経済的な包摂を提供するものとする。」
TPNW第6条1の文言から生じるのは,核兵器の使用及び実験の被害者を援助する義務が第一次的にはその使用及び実験が生じた領域国によって対応されるということである。これは,核兵器を実験し又は使用した国家についての国家責任から生じる義務とは異なっている。言い換えれば,これら2つの仕組みの適用範囲は異なっている。加えて,TPNW第6条3及び第7条6(国際協力及び援助)は,明示的に一般国際法の原則の適用可能性を留保している。
「第6条3 前2項に基づく義務は,国際法又は二国間の協定に基づく如何なる他国の義務及び責務にも影響しない。」
「第7条6 締約国が国際法に基づき負う他の義務に影響を与えることなく,核兵器その他の核爆発装置を使用し又は実験した締約国は,被害者の援助及び環境の回復を目的として,影響を受けた締約国に対して十分な援助を提供する責任を有する。」
したがって,自由権規約委員会の一般的意見第36号の参照にみられるように,TPNW第6条1に基づく被害者援助と国家責任との規範的抵触の可能性の余地は存在しないか,ごくわずかなものとなるはずである。
最終的所見
この一般意見は,少なくとも以下の理由に基づいて,我々の注目に値する。すなわち,第1に,人権機関である自由権規約委員会が戦争防止と核兵器の問題に取り組むという事実は,これら国際法諸分野の相互関係増大の証拠であり,同時に,「武器管理の人道化」が増していること確認するものである。去年〔2017年〕のTPNWの採択や数日前〔2018年10月30日〕の自由権規約委員会一般的意見第36号の採択は,核軍縮への新たな,より人間中心的な潮流を示している。
第2に,核軍縮の通常の経路は効果的でないままであり,新しい方途が試みられなければならない。市民社会は核兵器反対の努力をするさいに,武器管理と人権との架橋を今や活用すべきである。生命に対する権利は,核兵器について関連のある唯一の人権ではないにしても,疑いなく非常に基本的な人権であり,また,自由権規約委員会は,非常に多様な人権と分野を対象とする大きな仕組みの枠内で人権を扱う唯一の国連機関である。核兵器のない世界のために闘っているNGOは,自らの声を聞かせるために人権の分野における他の規範,条約,そして場を今や活用するべきである。
第3に,純粋な現実政治と強者の掟によって推し進められる,2018年の米国核態勢見直しやロシアの同様の報告書,イランに関する包括的共同行動計画(JCPA)への米国の拒否,INF条約からの脱退意図など,最近の核分野における,こういったすべての否定的で懸念すべきニュースの最中にあって,一般的意見第36号のような文書の採択は,理性,国際法の諸原則及び人道の考慮によって着想されたものであり,歓迎される以上に他の場所でも繰り返されなければならない。
最後に,厳格な法的観点からは一般的意見の主要な価値はおそらく以下の事実にある。すなわち,国連人権諸機関の一般的意見は関連条約規定についての,そしてその結果として,それらの文書から派生する締約国の義務についての同機関による有権解釈として一般的にみなされるという事実である。一定の状況のもとでは,これらは慣習国際法をも反映し,あるいは,少なくとも国家慣行として,慣習国際法の確立に貢献するかもしれない。この点,NPTの下で核兵器の保有が認められているすべての国家が,中国を除いて,自由権規約の締約国であることを指摘する価値はある。
筆者は,単純には考えていないし,事実問題として,核兵器国が一般的意見第36号の採択の直接的結果として核兵器の貯蔵を放棄するとは期待していないが,独立した国際的な法及び人権の専門家によってなされ,最近のTPNWを考慮したこの種の声明の採択は,核兵器を保有する諸国に対する圧力を増し,それら諸国の兵器を非正当なものとすることに役立つと考える。
初出・機関誌「反核法律家」98号(2019年3月)
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Tsubasa Shinohara (LLM),明治大学法学修士修了,ローザンヌ大学修士課程(法学)現在。 |
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※2 |
Daniel Rietiker and John Burroghs, The incompatibility of WMDs with the right to life (Article 6 ICCPR) – a submission to the UN Human Rights Committee, 7 September 2016. |
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※4 |
See Rietiker and Burroughs, op.cit., Follow-Up Submission. |
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※6 |
ICJ, Advisory Opinion on the Legality of the Threat or Use of Nuclear Weapons, ICJ Reports 1996, § 35. |
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※7 |
Rietiker, Humanization of Arms Control – Paving the Way Free of Nuclear Weapons, Routledge, 2017, pp. 269-276. |
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※10 |
Conclusion F) of the Advisory Opinion. |
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※11 |
Res. A/56/10, of 12 December 2001. |
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※12 |
See also Paragraph 4 of GC no. 36. |
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