核政策法律家委員会(LCNP)
(訳:森川 泰宏)
今次の第10回核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons:NPT)再検討会議は、紛れもなく厳しい状況の中で開催される。NPTと広範な核不拡散レジームは様々な課題に直面している。NPTの核兵器国の一つ〔であるロシア〕が違法かつ無謀な核戦力による威嚇を行い、また、非核兵器国に対して宣言された消極的安全保証(Negative Security Assurances)を踏みにじっており、さらには、NPTの文言と精神に反する新たな核共有(Nuclear Sharing(ニュークリア・シェアリング))の取り決めを計画している。より広く見るならば、NPTの核兵器国は、質的な、そして場合によっては量的な核軍拡競争を展開し、核軍備管理協定は消滅あるいは消滅の危機に瀕しており、新たな核軍備管理や核軍縮交渉の展望も見られず、これまでにない新たな問題として、燃料に高濃縮ウランを用いる原子力潜水艦の拡散計画も動き出している。
不信感の高まりや核軍拡競争の激化、明らかな核威嚇(Nuclear Threats)を含む継続中のロシア・ウクライナ間の戦争などの今日の状況は、核兵器の廃絶が必要不可欠であることを際立たせるものとなっている。過去何十年にもわたって核政策法律家委員会(Lawyers Committee on Nuclear Policy:LCNP)が繰り返し主張してきたように、NPTと一般国際法上の核軍縮義務に従って、核兵器廃絶に関するグローバルな多国間交渉を開始する道が見出されなければならない。そのためのプロセスが真に開始されなければ、この目的の達成を見通すことはできない。
現在の状況への対応としては、NPT締約国は、あらゆる核兵器を使用するとの威嚇を強く非難し、また、消極的安全保証の強化を支持すべきである。さらに、NPT締約国は、新たな核共有の取り決めの創設に反対するとともに、併せてNPT以前の既存の核共有の取り決めの終了を支持しなくてはならない。どちらの形式の核共有もNPTの第1条と第2条に違反するからである。核威嚇と核共有は、核軍縮義務の履行に相反する環境をもたらすのであって、この両者に効果的に対処できなければ、弱体化している核不拡散レジームにさらなる負荷を掛けることになる。また、NPT締約国は、燃料に高濃縮ウランを用いる原子力潜水艦の拡散計画にも反対する必要がある。
前回の2015年NPT再検討会議以降、複数の国が核戦力を行使するという危険な威嚇のやり取りを交わしてきた。核威嚇は、著しく挑発的かつ愚かであることに加え、国際法に違反するだけでなく、核兵器の役割を低減させるNPTのコミットメントにも逆行するものであって、長年にわたる核軍縮義務の履行を弱体化させるものである。
ごく最近では、ロシアは、継続中のウクライナに対する侵略戦争に介入する国に向けて、「これまでに見たことのない結果」をもたらすことになると表明し、やや遠回しな表現で核威嚇を行った。2017年には、アメリカと北朝鮮が扇動的な大量破壊の威嚇のやり取りを交わした。ロシアによる核威嚇は、これが「いかなる国の領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の行使」をも禁止する国連憲章〔の第2条4項〕に違反する違法な戦争の最中になされたものであって、実際にその遂行を助けるものであるのだから、まずもって違法である。しかし、核兵器を使用するとのあらゆる威嚇は、違法行為に関与するとの威嚇であるのだから、アメリカと北朝鮮との間で交わされたような威嚇もまた違法である。核兵器を使用するとの威嚇〔の国際法上の違法性〕は、その威嚇が侵略国によって表明されたのか、被侵略国によって表明されたのかに左右されないものなのである。
国際司法裁判所(International Court of Justice:ICJ)が1996年の〔核兵器〕勧告的意見で説示したように、ある兵器の使用が交戦行為を規律する国際人道法の要件を満たさない場合、その使用の威嚇も国際人道法違反となる(※1)。核兵器国の政府は、依然として核兵器の使用が国際人道法違反であることを認めていないものの、この事実は広く認識されている。最も重要なことは、核兵器は、軍事目標と文民・民間インフラ施設〔等の民用物〕との間の区別と環境の深刻な破壊の回避の要件とを満たすことができないということである(※2)。
核威嚇の違法性が明らかになるためには、当該威嚇に信憑性があるとみなされる必要がある(※3)。ロシア・ウクライナ間のケースの場合、ロシアは世界最大の核弾頭保有国なのであって、その国家元首が実際の紛争開始時に上記のような威嚇を表明した。核戦力により威嚇する際のロシアの信憑性に疑いはなく、ロシアのプーチン(Vladimir Putin)大統領による威嚇の表明は、ウクライナに代わって、または、少なくとも間接的にウクライナに代わって介入する可能性のある国に対する違法な威嚇を構成する。2017年にアメリカと北朝鮮との間で交わされた威嚇もまた、信憑性があるもので、かつ違法であったといえる。一般に理解されている以上に、2017年に朝鮮半島とその周辺地域で有事の生じる可能性が実際にあったのである。
さらに、核兵器を使用するとの威嚇は、2000年の〔NPT再検討会議において〕NPT締約国が行った「これからも(will ever be)、核兵器が使用されるリスクを最小限に抑えるために安全保障政策における核兵器の役割」(※4)を低減し、すべての核兵器国を核備蓄の「完全廃棄」につながる過程に組み込むという既存のコミットメントを損ない、弱体化させることになる。これらのコミットメントは、2010年のNPT再検討会議〔において採択された最終文書〕の行動計画においても確認されており、核兵器国は、核軍縮に関する「具体的な進展を加速する」(※5)ことを約束している。信憑性のある核威嚇、特に現に戦争が生じている状況下での核威嚇は、かえって国策における核兵器の役割を増大させることとなり、核兵器国間の完全核軍縮に向けた生産的なプロセスを危険にさらすことになるのである。
核威嚇を伴うロシアによるウクライナ侵攻は、1995年にNPTの5核兵器国〔であるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国〕によって宣言され、国連安保理決議984(※6)によって確認された消極的安全保証の強化が急務であることを示している。ロシアが〔NPTの非核兵器国に対して〕行った保証は次のとおりである。「ロシアは、ロシアの領土、軍隊またはその他の部隊、同盟国またはロシアが安全保障上の約束をした国に対し、非核兵器国が核兵器国と連携または同盟して実施または継続される侵略またはその他の攻撃を受けた場合を除き、[NPT]締約国の非核兵器国に核兵器を使用しない」(※7)。
ウクライナは、アメリカ、イギリス、フランスの3核兵器国からの〔兵器・物資等の〕供与を受けてロシア軍への攻撃を行っていることから、上記の保証の文言は、ロシアによる核兵器による威嚇または使用からウクライナを十分に保護するものではない(※8)。このような〔状況下の〕威嚇または使用であっても、ICJの核兵器勧告的意見とその後の進展からすれば、なお国際法に違反するものであるが、アメリカ、ロシア、イギリス、フランスの4ヵ国は、消極的安全保証を強化することが望ましい。
したがって、以前から提唱されてきたように、消極的安全保証は、その適用に関する条件を除外し、核兵器の使用のみならず、核兵器を使用するとの威嚇を行なわない約束をも含むように再構築されるべきである。1995年にアメリカ(※9)、イギリス(※10)、フランス(※11)が行った保証は、ロシアが行った保証と同様のものである。中国は、1995年の5核兵器国による保証において条件を付さなかった唯一の国であり、核威嚇を行わないという要素を含んで、「中国は、いついかなる状況下においても、非核兵器国または非核兵器地帯に対する核兵器の使用または核兵器を使用するとの威嚇を行わないことを約束する」(※12)と宣言している。
幸いにも、中国が行った保証と同様の方向に向けた進展がみられる。1995年の保証以降、アメリカは、政策ステートメントに核威嚇を行わないという要素を追加し、核兵器国との関係についての条件を削除した。そのため、2018年の「核態勢見直し」(Nuclear Posture Review:NPR)では、次のように明記されている。「アメリカは、NPTの締約国であって核不拡散の義務を遵守する非核兵器国に対し、核兵器の使用または核兵器を使用するとの威嚇を行わない」(※13)。しかしながら、これには、「アメリカは、戦略的非核攻撃技術の開発・拡散とこれに対抗する自国の能力とによって当然とされ得るような保証の調整を行う権利を留保する」(※14)との条件が付されている。2015年のイギリスの政策ステートメントは、基本的にアメリカの政策ステートメントと同様のものである(※15)。
アメリカのアプローチには二つの問題点がある。第1に、ある国の核不拡散義務遵守の有無を誰が判断するのか、また、問題となる不遵守の程度はどの程度なのかが問題となることである。第2に、生物兵器やサイバー兵器などの戦略的非核攻撃技術に関する留保の条件が、核兵器を放棄した国は自国に対して核兵器が使用されない保証を享受するに値するという取引の単純な性質を損なってしまうことである。
一部の政策立案者は快く思わないかもしれないが、正しく賢明な行動は、非核兵器国に〔消極的安全保証についての〕無条件の約束をした上で、複雑な事態や想定外の事態が発生した際に別途対処することである。核兵器国が、自国の有する通常の軍事力により、当該事態に対処するための十分な能力を備えていることは言うまでもない。この目的のために、LCNPは、NPT再検討会議の審議を経て策定される行動計画に次の点を盛り込むという〔アメリカのシンクタンクである〕軍備管理協会(Arms Control Association:ACA)の勧告を支持するものである。「NPTの核兵器国に対し、1995年の消極的安全保証を更新し、NPTに加盟する非核兵器国に対して核兵器の使用または使用するとの威嚇を行わないことを共同または個別に確認することを求める」(※16)。
このアプローチは、(限定された)核兵器不使用の保証を供与する地域的な非核兵器地帯条約の議定書を強化することを妨げるものではない。また、消極的安全保証に関する個別の条約を追及することを排除するものでもない。しかしながら、1995年の消極的安全保証を更新することは、近年明らかになったその保証内容の不備に対応する最善策なのであって、NPT締約国によって要求されるべきものなのである。
2022年6月25日にロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領との間で行われた公開対談は、両国が、一部の北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization:NATO)諸国とアメリカが行っている核共有の取り決めと類似の核共有を計画していることを示している(※17)。プーチン大統領は、ベラルーシがすでに所有しているロシア製の爆撃機をロシアが供与する核爆弾を搭載できるように改良し、これを操縦するベラルーシのパイロットをロシアが訓練することを示唆した。NATO方式の核共有のアプローチに従えば、核爆弾の使用決定を受けて、ベラルーシのパイロットが操縦する航空機に搭載されない限り、核爆弾はロシアの管理下に置かれることになる(※18)。この取り決めを実行に移すのに、おそらくは数年程度の時間を要するであろう。また、プーチン大統領とルカシェンコ大統領は、核弾頭搭載可能な〔9k720〕イスカンデルミサイルをベラルーシに配備する計画を発表しており、このことは、軍事的な観点からすると、NATOにとって同等、または、それ以上の懸念事項となるものである。
ロシア・ベラルーシ間の核共有は、警戒すべき潜在的な展開であり、NPT締約国から強く非難されるべきものである。核共有と核弾頭搭載可能なイスカンデルミサイルの配備が実施されれば、冷戦後のNATO加盟国やポーランドなどに核兵器を配備しないというNATOの基本方針が見直されるかもしれない。このことは、NATO側の核兵器への依存と定着を深めることにつながり、それに応じて、ロシア側でも核兵器への依存と定着がさらに深まることを意味するであろう。ロシア・ベラルーシ間の核共有は、より強化された核兵器運搬システムの開発と配備に向けた傾向を強めることにもなり得る。
さらに、ロシア・ベラルーシ間の核共有がNPTと両立しないものとして非難されなければ、世界の他の地域、特にアジア太平洋地域や中東において、核共有の取り決めが現実化することにもなりかねない。長年にわたり、折りに触れて、このような取り決めが現実となり得るとの憶測がなされてきたが、ロシアによるウクライナ侵攻と北朝鮮で進行中の核開発とによって引き起こされた国際制度の混乱に鑑みれば、その可能性はより高まっている。実際に、現在、日本では、故・安倍晋三元首相による2021年初頭の提案に基づいて、日米間の〔新たな〕核共有の取り決めが公に議論されているのである(※19)。
NPTと核共有が両立しないことは、NPTの第1条と第2条を素直に適用すれば明らかである。NPT第1条は、NPTの核兵器国に対し、「核兵器…又はその管理をいかなる者に対しても直接又は間接に移譲しないこと」を求めている。さらに、同条は、核兵器国に対し、「核兵器の取得…又は核兵器…の管理の取得につきいかなる非核兵器国に対しても何ら援助、奨励又は勧誘を行わないこと」を求めている(※20)。NPT第2条は、NPTの非核兵器国に対し、当該移譲や援助等を受領してはならないという付随的な義務を課している。
これらの条項は、1995年のNPT無期限延長の決定後になされたNPT再検討会議におけるコミットメントに照らして読まれなければならない。2010年〔のNPT最終文書〕の行動計画のアクション1では、すべての締約国は、「NPTと核兵器のない世界という目的に完全に合致する政策を追求すること」(※21)を約束している。2000年のNPT最終文書では、「いかなる状況においても、核兵器のさらなる拡散を防止し、平和と安全に対するNPTの重要な貢献を維持するという共通の目的を達成するためには、NPTの条項を厳格に遵守することが引き続き重要であることを再確認する」(※22)とされている。
これらのコミットメントは、運搬のために核爆弾が引き渡されるまで非核兵器国によって核兵器の管理が行われないという、1967年から1968年にかけてアメリカがNATOの核共有を擁護するために提示した信じ難い議論(※23)と相反するものである。戦時の際にNPTに明確に違反することを計画する政策は、NPTと「完全に合致する」政策とはいえない。さらにいえば、NPTは、戦時を含む「いかなる状況」においても適用されるものである。
1995年以降になされたNPTの他のコミットメントも核共有の問題に関係する。ロシア・ベラルーシ間で核共有の取り決めが創設されることは、「核兵器が使用されるリスクを最小限に抑え、核兵器の完全廃絶プロセスを促進するために、安全保障政策における核兵器の役割を低減する」(※24)とした2000年〔のNPT最終文書〕のコミットメントに反することになる。また、「一方的なイニシアティブに基づき、核兵器の削減と軍縮プロセスの不可分の措置として、非戦略核兵器をさらに削減する」(※25)とした2000年〔のNPT最終文書〕のもう一つのコミットメントを実施し、追求することにも誠意を示すものとはいえないであろう。
1995年以降の別の側面からの展開として、核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons:TPNW)の成立がある。TPNWの第1条(g)は、締約国の領域内に核兵器を「配置し、設置し、又は配備」することを禁止している。同条は、既存または将来のいくつかのケースにおいて、重要な制約となり得る。例えば、フィリピンはアメリカの軍事同盟国であるが、TPNWの締約国として、核共有の取り決めを創設することは禁じられているのである。
NPTの下で、NATOの核共有は、新たな核共有の取り決めの創設を正当化する先例となるのであろうか。その答えは「ノー」であり、NPT発効の際にNATOの核共有に関しては行われなかったものの、NPT締約国は、NPTと新たな核共有の取り決めとが両立しないものであることを精力的に主張しなければならない。
1968年にNPTが署名される以前から、アメリカは、NATO諸国との核共有の取り決めを行っており、その中には、現在も核共有の取り決めに参加している5ヵ国、すなわち、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコが含まれているが、トルコとの取り決めの内容は明らかではない(※26)。すでに指摘したとおり、この特殊な取り決めの本質は、核共有参加国のパイロットが、アメリカの供与する核爆弾を運搬するための航空機の訓練を受けることなのであり、加えて、当該航空機自体がアメリカから供与される国もある。核爆弾は、通常はアメリカの管理下にあり、戦時に使用する際には、アメリカ大統領による許可が必要となる(※27)。ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダでは、より高性能な航空機への更新が進行中または計画中である(※28)。
アメリカとNATOは、NPTの発効後も核共有の存続を意図していた。核戦力の支配権からNATOを排除することに最も関心を有していたソ連は、NPTの第1条と第2条は個々のNATO諸国との核共有を排除しないというアメリカの解釈に同意した。1997年に複数のNGO関係者により上梓された「NATOの核共有とNPT」(※29)という論文でも指摘されているとおり、ソ連のほかに、(ジュネーブ軍縮会議(Conference on Disarmament:CD)の前身である)18ヵ国軍縮会議の特定のメンバーには、公表前の時点で上記のアメリカ解釈が知らされていた。
NPTは、1968年7月1日に署名のために開放された。上記のアメリカ解釈は、1968年7月9日にアメリカ上院の公聴会において公表されたものである。また、NPTの署名・批准に関係するアメリカによる公式な国際ステートメントに上記のアメリカ解釈は含まれていない。我々の知る限りでは、NPT発効までの間、署名、批准またはその他の機会に上記のアメリカ解釈に対して正式に異議を唱えた国は見当たらない。一部または多くの国は、単に上記のアメリカ解釈を知らなかっただけなのかもしれない。しかしながら、1995年のNPT再検討・延長会議、その後のNPT関係の諸会合、そして現在に至るまで、核共有は論争の的となっているのである(※30)。非同盟運動(Non-Alignment Movement:NAM)諸国は、今次の〔第10回NPT〕再検討会議において、「あらゆる種類の安全保障上および軍事上の取り決めまたは同盟の下での他国との核共有を含む核兵器およびその他の核爆発装置の拡散を防止するため、すべての締約国、特に核兵器国によるNPTの第1条と第2条の完全かつ非差別的な実施の必要性を強調する」(※31)よう勧告している。
今この時点で、1970年のNPT発効後と1995年のNPT無期限延長後との新たな核共有の取り決めがNPTと両立しないことをNPT締約国が明確かつ力強く伝えるのなら、それは政策的に重要なものとなり、法的問題にも新たな光を当てるものとなるであろう。さらに、1968年に交渉されたNPTは、1995年のNPT無期限延長とそれに伴うコミットメント、そして、2000年と2010年のNPT再検討会議において〔コンセンサスで〕採択されたコミットメントに照らして、ポスト冷戦の時代に新たな意義を獲得しているのであり、そのいくつかは上記で議論したとおりである。ここで関連するのは、ウィーン条約法条約の第31条(3)(b)であり、同条は、条約を解釈する際には、とりわけ「条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの」を考慮しなければならないと規定しているのである。
いかなる場合でも、NPTの第1条と第2条に係る上記のアメリカ解釈を支持するために、アメリカが50年以上前に提示した主張を容認あるいは公認することがあってはならない。その主張とは、核共有は、「戦争開始の決定がなされない限り、または決定されるまで、核兵器またはその管理についてのいかなる移譲を伴うものではなく、戦時の際には、もはや条約〔NPT〕の効力は及ばない」(※32)というものである。アメリカ上院での証言では「通常の戦争(general war)」と表現されたNPTが戦時に法的拘束力を有さないという主張(※33)は、法的に誤りであるばかりか、機能しないものであり、また、危険な不安定性をもたらすものであって、このことは、NATOの核共有を終了すべきか否かという問題に関連して、20年以上前に公刊された上記NGO関係者執筆の論文でも指摘されている(※34)。上記でも触れたとおり、NPTの条項を「厳格に遵守」することこそが「いかなる状況においても、核兵器のさらなる拡散を防止」するために「重要」であることを再確認する2000年のNPT最終文書(※35)において、上記のアメリカの主張は黙示的に反駁されている。
以上の議論をまとめると、今次のNPT再検討会議において、NPT締約国は、ロシア・ベラルーシ間の核共有の取り決めに対し、政策的見地と法的見地の両者から強く反対を表明すべきである。また、NPT締約国は、NATOの核共有をできるだけ早期に終了するよう求めるべきである。NATOの核共有を終了させることは、他の地域での同様の取り決めを創設するためのモデルと理論的根拠を失わせるものとなるであろう。
今次のNPT再検討会議におけるもう一つの核拡散リスクの問題は、オーストラリア、イギリス、アメリカ(Australia-United Kingdom-United States:AUKUS(オーカス))の〔安全保障の枠組みによる原子力〕潜水艦取引に関するものである。現在計画されているところでは、オーストラリア〔に導入予定〕の原子力潜水艦には兵器級の高濃縮ウラン(highly enriched uranium:HEU)が燃料として用いられる。核兵器国が、兵器転用が可能な何トンもの高濃縮ウランを非核兵器国に移転するという前例のない事態は、NPTの明示的な条項に違反するものではないのかもしれないが、LCNPは、他のNGOとともに、NPT締約国に対し、この「抜け穴」を塞ぐように求めるものである。AUKUSの枠組みで潜水艦取引を行う当事国は、兵器目的の燃料転用に対する十分な保障措置があると述べているが、その主張は疑問視されている。
すなわち、〔今次の第10回NPT再検討会議に際し〕中国は、移転に当たって十分な保障措置がなされるのかについて疑問を提起する作業文書と、AUKUSの〔原子力潜水艦〕取引が東南アジアと南太平洋の非核兵器地帯を脅かすと主張する作業文書との二つの作業文書を提出している(※36)。オランダ、ノルウェー、韓国は、原子力潜水艦には特に言及していないものの、核不拡散レジームの維持には、高濃縮ウランの所在と使用を制限することが重要であると一般的に主張する作業文書を共同で提出している(※37)。過去数年間のアメリカの政策も、例えば原子炉で高濃縮ウランを置き換えるキャンペーンにおいて、このような見解の妥当性を認めている(※38)。
保障措置が十分であると仮定したとしても、イランを含む他の国が原子力潜水艦の取得を目指している中で、〔AUKUSの潜水艦取引が〕高濃縮ウラン移転の先例となることについての広範な懸念を我々は共有している。NPT締約国は、高濃縮ウランの用途拡大に反対すべきであり、具体的には、AUKUSの潜水艦取引の当事国に対して原子炉燃料を非兵器級の低濃縮ウラン(low enriched uranium:LEU)で代替するように求めることで、NPTの維持と強化に努めるべきである。
以上の議論を要約すると、LCNPは、NPT締約国に対し、①あらゆる核戦力による威嚇を強く非難し〔Ⅰ〕、②NPTの核兵器国が1995年に宣言した消極的安全保証について、NPTの非核兵器国に対する核兵器の使用や核兵器を使用するとの威嚇を行わないことを無条件に確約することで、その強化を支持し〔Ⅱ〕、③新たな核共有の取り決めに反対するとともに、併せて既存の核共有の取り決めの終了を支持し〔Ⅲ〕、④高濃縮ウランのあらゆる用途拡大と移転に反対すること〔Ⅳ〕によって、核不拡散・核軍縮レジームを維持するように求めるものである。
* 出典:Lawyers Committee on Nuclear Policy, Nuclear Threats and Nuclear Sharing Versus the Non-Proliferation Regime, 2 August 2022, available at <https://bit.ly/42sEWFW>.
本稿は、2022年8月1日~26日まで、アメリカ・ニューヨークの国連本部で開催された第10回NPT再検討会議に併せ、2022年8月2日付けでLCNPがウェブ上に公開した提言書を訳出したものである。周知のとおり、第10回NPT再検討会議は、前回の再検討会議に続き、2回連続で最終文書のコンセンサス採択に失敗して閉会することとなったが、2026年に開催予定の次回の再検討会議に至る一連のサイクルを見据えれば、本稿で議論される核威嚇と核共有、これに関連する消極的安全保証の強化、AUKUSの原子力潜水艦取引を契機とした高濃縮ウランの拡散など各国の安全保障とも強く関連する問題への対応は、引き続きNPT体制の維持・強化に関わる主要な論点となることが予想されるのであり、その賛否を含め、本稿で示された提言は、今後の市民社会の活動、ひいては核兵器のない世界に向けた具体的な政策の評価においても参考となる点があろう。
LCNPは、法学者と弁護士を中心として構成されるアメリカの代表的な反核NGOであり、1981年の設立以降、40年以上の長きにわたり、ニューヨークを拠点として、国際法とアメリカ国内法の観点からの核兵器廃絶に特化した調査・研究、そこから得られた法的・政策的知見に基づくアドボカシー活動を継続している。1989年に設立された国際反核法律家協会(International Association of Lawyers Against Nuclear Arms:IALANA)のアメリカにおける加入団体であり、LCNPのニューヨーク本部はIALANAの国連オフィスを兼ねている。また、LCNPは、IALANAと同じく、2007年に発足した核兵器廃絶国際キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons:ICAN)の構成団体である。LCNPとICANとの関係について、その一端が窺われる論稿として、例えば、ジョン・バロース(訳:森川泰宏)「核兵器の人道的影響に関する国際会議と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN):オスロ会議の報告」反核法律家76号(2013年)26-31頁(日本反核法律家協会(JALANA)のウェブサイトで利用可能)がある。LCNPの過去の提言を含む詳細については、LCNPのウェブサイトを参照されたい。
ウェブサイトのURLについては、2023年6月18日の時点で接続を確認した。また、訳出に当たって、一部の構成と注の表記を訳者が調整した。〔 〕は訳者が補ったものであり、訳注を兼ねている。本文中のTPNWの日本語訳は、ダニエル・リエティカー/マンフレッド・モーア/山田寿則(訳:山田寿則)「核兵器禁止条約 逐条解説」反核法律家別冊(2023年)所収の訳文によった。
なお、核軍縮・廃絶派のアクターの視座からNATOの核共有を論評・批判する論稿として、小倉康久「NATOの核戦略:新戦略概念の検討」(浦田賢治編著(訳:伊藤勧・城秀孝・森川泰宏)『核抑止の理論:国際法からの挑戦』(日本評論社、2011年)所収、同書50-62頁)、ベルント・ハーンフェルト(訳:森川泰宏)「核共有違法論」反核法律家113号(2022年)40-55頁(JALANAのウェブサイトで利用可能)がある。また、国際人道法(International Humanitarian Law:IHL)ないし武力紛争法(Law of Armed Conflict:LOAC(ロアック))の観点から、ロシアによるウクライナ侵攻についての国際法上の論点を示す有用かつ信頼できるウェブ上の資料として、真山全「露ウクライナ侵攻関係国際法暫定論点メモ―jus ad bellum とjus in bello 」(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)他共催「緊急討論:ウクライナ危機II」(2022年3月25日、改同年4月5日))、特に本稿の議論と深く関係する核威嚇と核共有についての指摘につき、同8-9頁(RECNAのウェブサイトで利用可能)もあるので、本稿と併せて参照されることをお勧めする。
【註】