日本国憲法9条
1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
日本国憲法9条は1946年、第2次世界大戦後の日本で不戦の誓いとして生まれた。
この9条の存在価値は、条文どおりの戦争の放棄、軍隊の保持の禁止だけを命じる規範としてだけではなく、戦後60年の中で様々な派生的な原則を生み出してきたし、世界的に見ても普遍的な価値があり国際的な規範であるとも言える。
1.非核3原則
日本国憲法9条は、戦後60年の中で、日本政府の政策に影響を与えてきた。
武器輸出禁止3原則、防衛費GNP1%枠と並び非核3原則がある。
非核3原則は、1967年、当時の佐藤栄作首相が、「核を持たない、作らない、持ち込ませない」と国会で答弁して以来、法制化こそされていないものの政府の政策となってきた。
非核3原則は、唯一の核兵器の被爆国である日本人の平和に対する特別な思いと、日本が憲法9条を有する平和国家であることから国の政策となった。従って、非核3原則を守ることは、憲法9条を守ることを意味する。
憲法9条は、自衛隊や米軍基地の存在により、この60年間条文どおりには守られてこなかった。しかし、戦後60年以上にわたって自衛隊が海外で武力行使をしてこなかったことはまぎれもなく憲法9条の効果だったのであり、このことに典型的に表れているように、9条は憲法規範として最低限の法的な効力を有してきたといえる。非核3原則もそのような規範力が発揮された一つの例である。
ところが、1960年の日米安保条約の改定時に、日本政府とアメリカ政府の間で、日本に核兵器を持ち込むということについて密約があったことが発覚した。現在の民主党政権は調査し、密約の明確な合意までは認めていないと報告した。しかし、過去の日本政府が日本国民に秘密にアメリカの日本への核持ち込みを認めてきたことは確かである。
この「核密約」は非核3原則の3番目の原則である「核を持ち込ませない」ということに明確に違反する。
核密約の問題を徹底的に明らかにして密約を破棄するとともに、日本政府が非核3原則を今後しっかり守ることを法律化し、今後は日本への核の持ち込みを認めないということを、国の内外に明確に宣言すべきである。こうすることによって、アジアにおけるアメリカの「核抑止力」の効果を減殺でき、アジアにおける軍事的緊張を緩和することができるのである。また、非核3原則の法制化はアメリカの一部の人が心配するような日本の核武装のおそれをも否定することにもなる。
核密約の解明・破棄、非核3原則の法制化は、核廃絶に至るプロセスの一段階であり、憲法9条から導かれる平和政策の実現の過程でもあるのである。
日本政府が核密約を破棄するとともに、アメリカ政府も「核のない世界」を実現していくためにも、日本との核密約を否定していくべきである。
2.核兵器廃絶条約、武器取引規制
9条は日本国内に効果を及ぼすだけでなく、国際条約や他の国の憲法にも影響力をもってきた。なぜなら、9条は、戦争の原因となる軍隊自体を禁止するという、国連憲章よりも徹底した反戦の法規範であり、一国の憲法だけにとどまらない国際的な価値を有する。
9条の効力は武器取引の禁止にまで及ぶ。日本政府は武器輸出3原則(1967年)という政策をとり、武器取引を一定の範囲で規制している。武器輸出禁止3原則は、その後1976年に武器輸出一般を禁止する原則となっている。9条という平和憲法を有する日本だからこそ、このような原則が確立されたのである。
このような原則は、国際条約の中にも生きている。国連に2006年に提案された武器取引条約(ATT)案は、武器の取引を禁止するものであり、日本と同様に軍隊廃止を定めた憲法(12条)を持つコスタリカ政府のイニシアティブで国連に提案されたものである。
武器取引の規制は、戦争の原因である軍隊をなくしていくという憲法9条やコスタリカ憲法12条の考え方と相通じるものがある。
そして武器の規制として国際的に最も重要な条約が、現在国連に提案されている核兵器廃絶条約案(NWC)である。これもコスタリカ政府、マレーシア政府が1997年、2007年に国連に提案したもので、核廃絶に至るプロセスも定めた核兵器の製造、保持、使用の全面禁止を求める最も強力な法規制である。化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約などの大量破壊兵器の規制、地雷、クラスター爆弾の禁止条約などの通常兵器の規制にもつながっている国際的な武器規制の一つで最も重要な国際法が核兵器廃絶条約である。
憲法9条の効果の一つが武器輸出禁止3原則などの武器規制であるように、9条の効果は武器の存在に対する規制にまで及んでいる。武器の輸入がなされているアフリカの平和活動家から、日本の憲法9条に対する強い支持があったのは、9条の武器に対する規制に着目してのことである。
現在武器輸出禁止3原則は、日米のミサイル防衛の開発については例外を認めるなどの形で破られつつある。日本とアメリカの法律家、市民がこのような動きに反対していくことが、核兵器も含めた武器のない世界を実現していくことにつながるのである。
3.核抑止力の否定
9条からさまざまな効果が生まれる理由は、9条が「武力によらない平和」という思想を基礎にしていることにある。
9条1項は、国連憲章2条4項と同じく、武力の行使及び威嚇を禁じている。9条は紛争解決の手段として武力の行使・威嚇を禁止しており、そのために軍隊を保持することを2項で禁止しているのであるから、9条は、「紛争を軍事力にたよらないで平和的な手段によって解決する」という考え方を徹底する憲法条項と言える。9条と一体となっている日本国憲法前文は、「平和を愛する諸国民の正義と公正に信頼」する方法での安全保障を定めている。まさに「武力によらない平和」そのものを9条と憲法前文は指し示しているのである。
この9条に真っ向から反する事態が起こっている。
オバマ大統領は、2009年4月5日のプラハでの演説で、「核なき世界」を宣言する一方で、核兵器が現存する限り、「核抑止力」を維持することも同じ演説の中で表明している。また、日本では、現在沖縄の普天間基地の返還・移転が大きな問題となっているが、アメリカや日本の政府が米軍基地の撤去を認めない理由として、米軍基地の「抑止力」の維持が言われている。
このような核抑止力や軍事基地の抑止力を認めることは、9条の中核的な思想である「武力によらない平和」に真っ向から反する。「核抑止力」「抑止力」は、軍事力により相手に脅威を与え、反撃を抑えつけることを意味するから、「武力による威嚇」そのものである。日本国憲法9条1項及び国連憲章2条4項では、武力の行使のみならず武力による威嚇も禁止しているのであるから、「核抑止力」の考え方は、これらの規定に明確に違反しているのである。
国際問題を武力や軍事力で解決できないことは、イラク戦争やアフガニスタン戦争ですでに明らかになっている。今こそ平和を愛する人々は、9条の「武力によらない平和」の考えを世界中に広めて行く時である。
4.まとめ
以上述べたように、日本国憲法9条は、単に日本一国の憲法条項にとどまらず、様々な政策や効果を生み出してきた強い生命力を有し、「武力によらない平和」という平和思想を体現した憲法条項である。その意味で、9条は国際的に見ても理想とすべき法規範であり、他の国々に様々な形で取り入れられるべきである。
1999年のハーグ市民会議、2008年の東京での「9条世界会議」などでも9条を各国で取り入れていこうと確認された。法律家の分野では、2009年の国際民主法律家協会(IADL)のハノイ大会で採択された「ハノイ宣言」で、世界の平和を目指す法律家の指針として、各国で日本国憲法9条を実施していくことが定められた。
日本及びアメリカの平和を愛する法律家・市民が、9条及び9条の考え方を広める「グローバル9条キャンペーン」を今後ともより一層推進していき、その中で核兵器廃絶の実現を目指して力を合わせていきましょう。