IALANA:核兵器禁止条約に関する声明
―2017年9月20日署名開放にあたって―
(JALANA訳)
国際反核法律家協会(IALANA)は、2017年7月7日の核兵器禁止条約の採択を歓迎する。核兵器禁止条約は、次の理解に基づいた強力で雄弁な主張である。即ち、(1)核爆発の壊滅的な人道上の帰結、(2)核兵器の不使用と廃絶を命じる政治的、倫理的及び法的基準、(3)核時代によって人々と環境にもたらされた損害を救済する必要性、これらについての理解である。同時に、より広い世界の風潮はネガティブであることを認識しなければならない。なぜなら、朝鮮情勢などにおいて核兵器の使用の威嚇がなされ、核武装9ヶ国はいずれも長期にわたる核軍備の維持及び近代化計画を続けている。この条約を基礎づける人道の価値と軍縮の論理の双方でもって核武装国とその同盟国を説得することが肝要である。
IALANAは、これまで強く提唱してきたように、この条約が核兵器の不使用と廃絶を要求する条約及び慣習に基づく現行の国際法をしっかりと認識し強化している点に満足している。この法は、条約への参加・不参加を問わず諸国に適用される。それは、交渉に参加しなかった核武装国、及び大半が同様に不参加の核同盟国を含む。
すべての国に関係する考慮が条約の前文で述べられている。その法的要素は以下のとおりである。
・すべての国がいかなる時も国際人道法及び国際人権法を遵守する必要があることの再確認。
・国際人道法の重要な諸原則及び諸規則の特定。これには、文民と戦闘員及び民用物と軍事目標とを区別しなければならないという規則、無差別攻撃の禁止、均衡性の規則、予防措置の規則、不必要な苦痛を与えることの禁止並びに環境を保護する規則が含まれている。
・核兵器のいかなる使用も武力紛争に適用される国際法の規則、特に国際人道法の原則及び規則に違反するであろうことの考慮。
・武力による威嚇又は武力の行使を禁止する国連憲章の想起。
・厳重かつ効果的な国際管理の下におけるあらゆる点での核軍縮に至る交渉を誠実に追求しかつ完結させる義務の再確認。この義務は、核不拡散条約第6条と1946年国連総会第1号決議にさかのぼる国連の慣行とに基づき、1996年の国際司法裁判所勧告的意見における全員一致の結論に明記されている。
この条約の中核的禁止事項は第1条に明記され、締約国による核兵器の開発、実験、生産、保有並びに使用及び使用するとの威嚇を禁じている。少なくとも後者の禁止、すなわち核兵器の使用及び使用するとの威嚇の禁止は、国際人道法、国連憲章並びに人道の諸原則及び公共の良心の命令に根ざした普遍的な法の問題として、この条約の当事国であるか否かを問わずすべての国に適用される。
私たちは,核兵器の使用及び使用するとの威嚇は、現在、戦闘行為を規制する国際人道法と両立しないことを強調する。とりわけ、その制御不可能な爆風、熱線、火炎及び長期にわたり残存する放射線の影響ゆえに、核兵器は、文民たる住民と戦闘員、及び民用物と軍事目標とを区物するという要件を満たすことができない。確かに、核兵器使用の壊滅的帰結は武力紛争という通常の範囲をはるかに超え、第三国の住民、人々の生活を維持するのに必要な自然環境及び将来世代に悪影響を及ぼす。したがって、核兵器の使用及び使用するとの威嚇は、特に生命に対する権利を中心とした国際人権法にも違反する。ゆえに、核兵器禁止条約の前文が国際人道法のみならず国際人権法をも援用していることは適切である。
軍事・安全保障態勢において、威嚇が今や何十年にもわたった核兵器依存の中心であるという観点から、IALANAはまた、使用するとの威嚇の禁止がこの条約に明示的に盛り込まれたことの重要性を強調する。それは、計り知れないリスクを内包しているという観点から、核抑止は良識だけでなく国際法に違反するとして、現在行われている核抑止を非正当化するキャンペーンにおいて重要な手段となるであろう。地球規模での核兵器の廃絶に成功するためには核抑止の非正当化は不可欠である。
この条約の前文は「核兵器の使用の被害者(ヒバクシャ)及び核兵器の実験により影響を受ける者にもたらされる容認し難い苦しみと害」に言及している。IALANAは、被害者に対する援助と環境の回復につき援助を提供することのできるすべての締約国が影響を受けた締約国を援助するという人権を基礎に置いた義務を歓迎する。核兵器の使用と実験の被害者への支援にはまだまだ課題がたくさんあり、汚染された地域の除染及びその他の適切な管理は、いまだ非常に困難な作業である。IALANAは、すべての国に対し、影響を受けた国への援助義務を真摯に果たすことを要求し、核兵器の使用又は実験を行った国の責任を特に強調する。
この条約により、核武装国が検証可能で不可逆的な方法で核軍備を解体するいくつかの道すじが造られ、それが今後地球規模での核軍縮の枠組みとして機能することをIALANAは期待する。この条約自体がそのような枠組みとして使われないとしても、少なくとも地球規模での恒久的な核兵器廃絶の包括的合意となる条約(a convention)への道を示している。
最後に、核兵器禁止条約は、市民社会と協働し、人類の未来に対する責任を果たそうとする国々の、参加型で、良心に動かされた非差別的な運動の成果である。それは軍縮と国際連合の民主化の兆しであり、国家の利害のみで誘導される考慮から個人を中心に据えた人間の安全保障へのパラダイム転換の先触れである。
したがって、この条約が1日でも早く発効するよう、私たちはすべての国に対し、同条約に署名し、直ちに批准することを呼びかける。私たちは核同盟を結んでいる諸国に対し、国家政策を適切に修正して、同条約に署名し国際法により署名国に求められているような条約の目的・趣旨に合致した行動をとることができるようにすること、そして条約を完全に遵守できるようになった場合に条約を批准することを求める。私たちは核武装国に対し、今、国際法で求められているような政策をとり、そして今、効果的な軍縮交渉を行い、核武装国らもまた条約に参加するか、あるいは核兵器使用という幽霊を退治し核兵器のない世界を達成するための並行プロセスを進めることができるようにするよう呼びかける。この点でこの禁止条約は、核兵器が地球全体で禁止されることを要求している現行の国際法の最も重要な部分を確認する証拠を提供する。この条約は、核武装国そして世界に対して、核軍縮義務を効果的に果たすことを力強く呼びかけている。
この声明(英語)は以下で閲覧可能。
https://www.ialana.info/2017/09/ialana-statement-regarding-treatyprohibition-nuclear-weapons-occasion-opening-signature-20-september-2017/