去る4月24日、ジュネーブにおける2015年NPT再検討会議第2回準備委員会において、南アフリカ代表より、74カ国による「核兵器の人道的影響に関する共同声明」が発表された。しかし、日本政府は、その声明に署名することを拒否した。
その拒否理由について、天野万利軍縮大使は、「日本は核兵器の非人道的影響に関する基本的な訴えに賛同」するとしながら、「日本を取りまく安全保障環境を念頭に置き」「声明への賛同を見送る」ことにしたと述べている。報道されるところによれば、声明の「核兵器が二度とふたたび、いかなる状況においても、使用されないことに人類の生存がかかっています」と指摘する部分が日本の核抑止政策に一致しないことが理由であるとされる。
今回の共同声明は、2010年のNPT再検討会議最終文書において「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに強い懸念」が表明されたことを受け、国際人道法の観点から、核兵器の廃絶につなげようとする歴史的流れの中で出されたものである。国際人道法から核兵器の使用の違法性確認、非合法化、そして廃絶へつなげる動きは、1964年の東京地裁下田訴訟判決、1996年国際司法裁判所の勧告的意見、2010年NPT再検討会議最終文書、そして、今年3月にオスロで開催された「核兵器の人道的影響に関する会議」とつながっている。そして、オスロ会議では、これまで言われた核兵器使用に伴う直後の無差別な被害、その後の広範囲な持続的影響に加え、「いかなる国家、国際機関であっても、核兵器爆発がもたらす短期的な人道上の危機に対処しえず、被害を受けた人々に十分な支援を提供できない」(今回の共同声明)という新たな人道上の視点が加わった。医療が壊滅し、救援に向かった人々にも大きな被害が出たことを含め、これらはすべて、ヒロシマ・ナガサキで日本が体験した事実そのものもあった。
ところが、日本政府は、この声明に賛同しなかった。日本こそ、核兵器使用の非人道的結末と国際人道法の視点から核兵器廃絶の先頭に立つべきである。それにもかかわらず、声明の署名を拒否したことに強い憤りを感ぜざるを得ない。
日本反核法律家協会は、人類の生存のために核兵器のない世界の実現に向けて特別の役割を果たすべき日本政府がその役割を果たそうとしないこと、被爆国のこのような対応が核兵器のない世界をめざす国際社会の障害とすらなっていることに強く抗議するとともに、「日本は将来、同じテーマの声明に対し賛同する可能性を真剣に検討したい」(天野大使演説)とする政府が早期に声明に賛同するように働きかけ続けたい。
併せて今年12月、世界で最初に核兵器(原爆)の使用が国際法違反であるとした東京地裁下田訴訟(通称「東京原爆訴訟」)判決から50年を迎えることをも踏まえ、我々は核兵器使用の非人道性の原点であるヒロシマ、ナガサキの意義を世界に伝えるつもりである。