核兵器禁止条約の採択を歓迎する
7月7日、国連の核兵器の全面廃絶のために核兵器を禁止する条約交渉会議(United Nations conference to negotiate a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination)は、核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)を賛成122、反対1(オランダ)、棄権1(シンガポール)で採択した。国連加盟国193カ国の約63パーセントに当たる多数の賛成である。私たちは、この条約採択を、「核兵器のない世界」を実現する上で、画期的な一歩となるものとして、心から歓迎する。
この核兵器禁止条約は、締約国に核兵器の開発、実験、生産、取得、占有、貯蔵、授受、使用、使用するとの威嚇、これらの禁止事項についての援助や奨励、自国への配備の許可などを全面的に禁止する(条約第1条)だけではなく、核兵器国に条約への加盟の道を開く仕組みを用意している(同4条)ものであって、核兵器の全面廃絶に向けての法的枠組みとなっている。また、この条約は、締約国に対して、核被害者に対する適切な援助や環境の回復を求めている(同6条)。今後、この条約は、本年9月20日からすべての国に署名手続きが開放され(同13条)、50番目の国の批准書が寄託されてから90日で発効することになる(同15条)。私たちは、この条約が、一日も早く発効することを祈念するものである。
ところで、日本政府はこの交渉会議に参加しなかっただけではなく、署名はしないとしている。このような態度は、唯一の戦争被爆国の政府として許されるものではない。また、米英仏3国は、「安全保障の現実を無視している」としてこの条約への署名や批准を拒否する姿勢を明らかにし、「われわれに何の法的義務を負わせるものではない」としている。さらに米国は、「この条約は核兵器を減らせない」、「北朝鮮の脅威に対する取り組みを損ねる」などとしている。彼らは、核兵器に依存しての国家安全保障を優先し、核兵器禁止条約を無視しようとしているのである。そもそも、人類社会を滅亡に追い込むかもしれない核兵器に依存して確保しなければならない国家の安全とは何を意味するのであろうか。また、自国は核に依存しながら、他国(北朝鮮)にはその保有を認めないなどという理屈に説得力はないであろう。
しかしながら、核兵器国や核兵器依存国がこのような態度を取り続ける限り、「核兵器のない世界」は実現しない。私たちは、彼らのこのような態度を転換しなければならないのである。そのためにまず求められるのは、この条約の背景にある価値と論理を広く共有することである。
条約は、核兵器の使用がもたらす破滅的な人道上の結果を深く憂慮し、核兵器を完全に廃棄することが、核兵器が二度と使用されないことを保証する唯一の方法であるとしている。そして、核兵器のいかなる使用も、武力紛争に適用される国際法の原則と規定に反するし、人道の諸原則と公共の良心の命ずるところに反するとしているのである。ここにあるのは、核兵器は非人道的であるだけではなく、武力紛争に適用される国際法にも違反するものであり、それが二度と使用されないようにするためには、核兵器をなくすことであるという価値と論理である。そして、その背景には、核兵器使用の被害者(hibakusha)や核実験被害者の苦痛と損害に対する留意が存在している。
条約は、「核兵器のない世界」の達成と維持は、国家的・集団的安全保障に資する、最高の地球的公共善(global public good)であるとしている。核兵器によって安全保障を確保するのか、「核兵器のない世界」が最高の公共善なのかが根本から問われているのである。私たちは、後者を選択する。
私たちは、核兵器完全廃絶の呼びかけに示された人道の諸原則の実現を推進するための公共の良心を自覚し、この条約が核不拡散条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT)、非核兵器地帯条約などと相まって、一日も早く「核兵器のない世界」が実現するように、法律家として、被爆者をはじめとする多くの人々と協力し、引き続き努力することを誓うものである。
2017年7月11日
日本反核法律家協会
会長 佐々木 猛也