ロシアの核兵器使用の威嚇に抗議し、核兵器国に核兵器の不使用と廃絶を勧告する決議を!!
日本反核法律家協会
会長 大久保賢一
私たち、日本反核法律家協会は、核兵器の廃絶と被爆者の支援を目的とする法律家と市民で構成する団体です。国際反核法律家協会の一員でもあります。私たちは、第1回締約国会議にあたり、締約国会議参加各国に、下記の要望をするものです。
要望の趣旨
ロシアの核兵器使用の威嚇に抗議し、核兵器国に核兵器の不使用と廃絶を勧告する。
との決議を採択すること
要望の理由
1.去る2月24日、ロシア連邦政府(以下、ロシア)は、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始しました。私たちは、この武力の行使は、国連憲章に違反する「侵略行為」であり、また、その作戦展開時に行われている文民や非軍事施設に対する攻撃は「戦争犯罪」に該当すると考えています。私たちは、この「侵略行為」と「戦争犯罪」を強く非難し、即時停止を求めます。
2.私たちが、特に注目しているのは、ロシアによる核兵器使用の威嚇です。プーチン大統領は、2月24日、「現代のロシアは、世界で最大の核保有国の1つだ。我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろう」と演説し、2月27日には、軍の核抑止部隊に高度警戒態勢への移行を指示しました。4月27日には、「介入する第三国への反撃は、どの国も保有していない物も含むすべての手段がある」と強調し、「もし必要になるならば、われわれは脅すだけではなく使用する」と語りました。これは、核兵器使用の威嚇であり、ウクライナやNATO諸国に対してだけではなく、全人類に対する脅迫です。核兵器が使用されれば、その影響は全地球に及ぶからです。
3.ロシアは、2020年6月、「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」を公表しています。この「戦略的計画文書」によれば、非核兵器による攻撃であっても、核兵器による反撃が想定されています。また、ロシアの保有核弾頭数は4630基でその内1625基は実戦配備されています(2021年・SIPRI)。ロシアには、核弾頭もそれを運搬する手段も含め十分な核戦力があるのです。ロシアの威嚇は、決して虚仮脅しではなく、国際社会に「壊滅と凄惨な結果」をもたらすことが可能なのです。
4.ロシアも締約国であるNPTは「核戦争は全人類に惨害をもたらす」、「このような戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払う」としています(前文)。1996年の国際司法裁判所の勧告的意見は、国家存亡の危機における判断は避けていますが、核兵器の使用や威嚇は武力紛争に適用される国際法に違反するとしています。ロシアが国家存亡の危機にあるとは、誰も認めないでしょう。2010年のNPT再検討会議では、「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道上の結末をもたらすので、いかなる場合も、国際法を遵守する必要性を再確認する」とロシアも含めて合意されています。更に、今年1月、プーチン大統領は「核戦争に勝者はない。核戦争は戦われてはならない」との核兵器国の首脳声明に署名しています。ロシアは、自らが締約国であるNPTやその再検討会議での合意も国際司法裁判所の勧告も無視し、大統領自身の言明を反故にして、全人類を威嚇しているのです。ロシアの核兵器使用の威嚇は、核兵器禁止条約の適用はできないとしても、法的にも政治的にも人道的にも許されない行為です。
5.そこで、私たちは、第1回締約国会議において、このロシアの核兵器使用の威嚇に強く抗議し、ロシアに核兵器の不使用とその廃棄を勧告する決議の採択を求めます。
6.私たちが、最も恐れるのは核兵器の使用です。それは、全人類に「壊滅的な人道上の結末」をもたらすからです。核兵器が意図的ではなく、誤算や事故で使用されることはありえます。これまで地球が吹き飛ばなかったのは「単にラッキーだった」からです。私たちは「ダモクレスの剣」の下での生活を強いられているのです。
7.核兵器禁止条約は、あらゆる核兵器使用がもたらす「壊滅的人道上の結末」を避けようとしています。その結末とは「適切に対処できないこと、国境を越えること、人類の生存、環境、社会 経済的な発展、世界経済、食料の安全及び現在と将来の世代の健康に重大な影響を与えること」などです。これはNPTの「全人類の惨害」と同義です。そして、核兵器禁止条約はNPTを補完し「核兵器のない世界を達成しかつ維持する緊急性」を指摘しているのです。
8.私たちは、この指摘を重く受け止めています。けれども、核兵器保有国や核兵器依存国はこの条約に反対しています。核兵器を禁止することは、自国の安全ひいては国民の命と財産を危うくするというのがその理由です。私たちは、核兵器を「国際政治の道具」、「平和を確保する道具」と位置づけて自国の安全を確保しようとする核抑止論を拒否します。核兵器使用の惨害から免れるための唯一の抜本的な方法は、核兵器禁止条約がいうように「核兵器が完全に廃絶されること」であることは明白です。
9.私たちは、ロシアの核兵器使用の威嚇を非難するだけではなく、ロシアと同様の核兵器大国であるアメリカやN PT加盟諸国の政府に対して、核兵器に依存する政策を改め、NPT6条が予定する「核軍拡競争の停止」、「核軍縮」、「全面的軍縮」に向けた条約の交渉をすみやかな開始とその完結を求めます。それは、NPT加盟国の当然の義務であり、「合意は守らなければならない」(pacta sunt servanda)は国際法の大原則だからです。なお、NPTに参加していない核保有国も国際人道法の原則を尊重する義務があることを指摘しておきます。
10.原爆被爆者は、「核兵器と人類は共存できない」としています。核兵器禁止条約は被爆者の「容認できない苦痛と被害」を踏まえて制定されました。核兵器の使用が全人類に惨害をもたらすことは、NPT体制下にある国際社会の「公理」です。核兵器禁止条約は、そのNPT体制を補完し、核兵器の開発、実験、保有、配備、移譲、受領、使用、使用するとの威嚇などを禁止し、核兵器の廃絶を目的とする条約です。加えて「締約国は、全ての国による条約への普遍的な参加を得ることを目的として、この条約の締約国でない国に対し、この条約を署名し、批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入するよう奨励する」(12条)としてその普遍化を求めています。
11.現在、ロシアは核兵器使用の威嚇を行い、その他の核兵器保有国や核兵器依存国も核兵器禁止条約に背を向けています。「最も危険な集団的誤謬」といわれる核抑止論に基づく核兵器依存政策がとられているのです。科学者集団からは、「終末」まで100秒との真剣な警告も発せられています。今ほど、核兵器の全面的禁止とその廃絶が求められている時はありません。
12.私たちは、第1回締約国会議に参加した全ての国に対して、全ての核兵器国に核兵器不使用とその廃絶を求める勧告を決議するよう要望します。