核兵器の不拡散に関する条約(NPT)再検討会議において
「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」を確立することを要望する
当協会は、核兵器廃絶と被爆者援護を目的とする戦争被爆国の法律家団体として、NPT再検討会議にあたり、締約国に対して、下記の要請を行う。
記
1 NPTと核兵器禁止条約(TPNW)とは相互補完関係にあることを確認すること
NPTは、第6条において、核軍備競争の停止、核軍縮及び全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約についての誠実な交渉を締約国に義務付けている。これは、核兵器保有国が、自らの核兵器の廃棄を約束するものであり、非保有国への核の不拡散と相まって、「核兵器のない世界」に向けての法的枠組の必要性を示すものである。この「誠実な交渉義務」とは、国際司法裁判所により「交渉を完結する義務」も含意するとされている。
他方、TPNWは、「NPTは核軍縮及び不拡散体制の礎石」、「その十分かつ効果的な実施は、国際の平和及び安全の促進において不可欠な役割」と規定している。また、ウィーンで開催されたTPNW第1回締約国会合において採択された「宣言」は、「本条約とNPTの補完性を再確認する」、「全てのNPT締約国に対し、第6条の義務およびNPT再検討会議において合意された行動および約束を完全に実施するための努力を再活性化することを求める」として、両者の補完性を再確認している。
NPTとTPNWが対立するかのように主張するNPT加盟国があるけれど、決してそうではなく、両条約は「相互に補完する関係」であり、何ら矛盾抵触する関係にはない。そのことの確認は、再検討会議における議論を前進させるうえで必要不可欠な前提である。よって、そのことの確認を求める。
2 核兵器保有国や核兵器依存国の参加を前提とする「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」を確立すること
同「宣言」は、「法的拘束力のある核兵器禁止の確立は、核兵器のない世界の達成および維持に必要な不可逆的で検証可能かつ透明な核兵器の廃絶に向けた基本的なステップ」として、「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」の必要性に言及している。
TPNWは発効したが、核兵器保有国や核兵器依存国が参加する「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」は存在していない。本来、このような法的枠組みは、核戦争を回避するためのシステムであるNPTに基づき、NPT締約国間において確立されるべきである。
そもそも、NPT第6条の「誠実な交渉義務」には、「核兵器のない世界の達成と維持」に関する効果的な措置について、誠実に交渉を行うことにとどまらず、「完結する義務」も含まれているのである。
既に、コスタリカとマレーシアが国連総会に提出した「モデル核兵器条約」が存在している。再検討会議において、この条約案を参考に、核兵器保有国や核兵器依存国が参加する「核兵器のない世界の達成と維持に関する法的枠組み」を確立することを要望する。
2022年7月21日
日本反核法律家協会
会長 大久保賢一