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声明・決議
広島市教育委員会による「ひろしま平和ノート」改訂に抗議する声明


 広島市教育委員会は、2023(令和5)年2月8日付「平和教育プログラムの改訂について(報告)」において、市内の市立小中学校で平和教育に使用されている教材「ひろしま平和ノート」について、故中沢啓治氏作「はだしのゲン」の削除をはじめとする改訂(以下、「本件改訂」という。)を明らかにした。当協会は、かかる広島市教育委員会の方針に強く抗議し、撤回することを求める。
 「はだしのゲン」は、被爆者でもある作者の故中沢啓治氏による実体験を基にした漫画であり、世界の多くの人びとに原子爆弾の投下直後の凄惨な被害と、その後の社会での過酷な生活、放射線被ばくによる差別等、核兵器の非人道性を漫画という親しみやすい手法で伝えるとともに、戦時下の軍国主義における言論弾圧や朝鮮人差別の実態など、戦争の異常性を伝える役割を果たしている。これを公教育で取り上げることは、被爆の実相に触れる機会を提供する重要な意義を有している。
 本件改訂によって「はだしのゲン」を削除する理由としては、「漫画の一部を教材としているため、被爆の実相を迫りにくい」、「浪曲の場面は、児童の実態に合わない」、等が挙げられている。しかし、いかなる素材を用いたとしてもその背景等の補足説明は避けられないものであり、むしろ教材内のみで完結させようとすることは、情報量を削減することを前提とするものというほかない。また、現代の児童の実態とそぐわないとの点も、歴史を学ぶ以上、現代の生活と合わないことは当然である。その当時の生活実態を基に、被ばくによる被害がいかなるものであったのかを説明することが重要なのであり、これを放棄することは、かえって被爆の実相を伝えることを困難にしかねない。
 また、第五福竜丸についても、「第五福竜丸が被ばくしたという記述のみに留まり、被爆の実相を確実に継承する学習内容となっていない」、「資料などを最新のものにする必要がある」との理由から削除され、「核軍縮への動き等について、地図や表、グラフ等から具体的に捉えられる資料に変更」、「核弾頭の保有数やNPT再検討会議等、近年の情報に変更」されている。しかし、第五福竜丸の被ばくは、核実験による被害を伝えるために極めて重要な歴史的事実であり、最新の情報を追加することは、これを削除する理由にはならない。
 さらに、中学2年生の教材においては、「国境を越えた『愛』と『勇気』」との題材でマルセル・ジュノー医師の活動が取り上げられていたが、広島でのオバマ大統領のスピーチ及びローマ教皇によるスピーチの一部に差し替えられ、ジュノー医師についての記述は参考資料欄に掲載されるとされている。しかし、オバマ大統領のスピーチは、核兵器による加害国であることの自覚と責任に欠ける上、核抑止論に依拠し自衛のための核兵器を肯定し、さらには核廃絶の実現は困難であることを前提としているものである。被爆治療にあたった実体験から核兵器の非人道性を訴え、世界で核廃絶を求め続けた同医師の活動よりも、現状では核兵器を肯定するオバマ大統領のスピーチを優先させる方針は、核廃絶のための努力を共有すべき広島の平和教育には不適切であり、核廃絶を「発信する」素材としても後退させるものと言わざるを得ない。
 その他にも、本件改訂では、「核廃絶」ではなく「核軍縮への動き」と表現されていること、「近年の情報」として例示されているものが日本政府が反対の立場をとる核兵器禁止条約(参考資料欄に掲載されるとのことである。)ではなくNPTであること等からすれば、核抑止論に拘泥し米国の核の傘を重視する日本政府の方針に追従するものと言わざるを得ない。そうすると、「核弾頭の保有数」等新たに組み込まれる記載も、核の危機を煽り核抑止の必要性を肯定させうる内容とされることが予想される。
 以上のように、今回の改訂は、被爆の実相と被爆後の苦難を表現した象徴的な「はだしのゲン」が削除される、という単純な問題ではなく、核兵器を含めた平和教育の在り方自体を大きく改変しようとするものである。本件改訂に携わった専門家委員は「新学習指導要領に精通した専門家」であると広島市教育委員会が回答していることからも明らかなとおり、本件改訂の根底には、2017(平成29)年に改訂された学習指導要領における愛国教育・領土教育の推進、ひいては、米国の核の傘に依存する日本政府の方針があると考えられる。本件改訂の議事録でも、「はだしのゲン」を削除すべきとの議論にはなっていないにもかかわらず、突然、事務局案として「はだしのゲン」が削除された改訂案が提示され、第五福竜丸については「指導資料に詳しい情報を入れてほしい」という意見が出ていたにもかかわらず、削除されており、これに対して委員会で何ら異議が述べられた様子もない。これらからすれば、5月に開催される広島G7サミットを控えたこの時期に行われた本件改訂は、日本政府及び広島を基盤とする岸田首相への忖度によるものと評価せざるを得ない。
 世界で初めて原子爆弾が戦争で使用された地であり、核兵器の非人道性を訴える先頭に立つべき広島市において、平和教育をさらに大きく後退させる本件改訂に対し、当協会は強く抗議するとともに、直ちに本件改訂を見直し、より充実した平和教育を実施することを求める。

2023年3月28日
日本反核法律家協会
会長 大久保賢一
JALANAに関する文書
IALANAに関する文書
日本反核法律家協会
〒359-0044
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