1 2023年3月25日、ロシアのプーチン大統領は、国営メディアへのインタビューにおいて、同盟関係にある隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備することで合意し、7月1日までにベラルーシ国内に核兵器を保管する施設が建設される予定であることを発表した。ロシアによるベラルーシへの戦術核兵器配備は、核戦争の危険性を高めるものであり、当協会は強く抗議する。
2 ベラルーシは、NATO諸国と国境を接する前線国家であり、同国への核兵器配備は、武力紛争に至った場合には戦術核兵器が使用される危険性を高めるとともに、核兵器による威嚇、誤使用や事故、テロ国家等への漏出等、核兵器による被害を生じさせるリスクを高めるものである。核兵器が使用されれば、壊滅的な人道上の結末を招くことになるのであり、核兵器使用のリスクを高める行為は断じて許されない。
プーチン大統領自身も、2022年1月に「核戦争に勝者はない。核戦争は戦われてはならない」とする核兵器国の首脳声明に署名し、2023年3月には中国の習近平国家主席とのモスクワ会談で、「すべての核保有国は自国の領土を超えて核兵器を配備してはならず、国外に配備されているすべての核兵器は撤去しなければならない」との共同声明を発表しているのであり、今回のベラルーシへの戦術核兵器の配備は、これらの方針とも相容れないものと言わざるを得ない。
3 プーチン大統領は、ベラルーシへの核配備の理由として、欧米のウクライナへの支援がレッドラインを超えたことを挙げており、米国によるNATO諸国への戦術核配備や、英国によるウクライナへの劣化ウラン弾の供与にも言及している。いかなる理由があろうとも、核兵器を拡散させ使用の危険性を増大させる核兵器の配備は許されるものではないが、これまでなされてきた米国を含む核兵器の配備とそれによる威嚇が今回の事態を引き起こしたものであることは明らかである。今回のロシアによる戦術核の配備を受け、米欧は、対露圧力をさらに強める姿勢を示しており、世界は際限のない軍拡、威嚇競争に陥りつつある。
このような核兵器による威嚇合戦は、最終的には核戦争による「壊滅的人道上の結末」を招くものであり、双方とも直ちに中止しなければならない。
4 核兵器使用の威嚇、核軍拡・拡散は、「最終兵器」である核兵器に依存することであり、「全人類の惨禍」や「壊滅的人道上の結末」を覚悟しなければならない。核兵器による抑止が平和と安全を確保するというのは「存在する最も危険な集団的誤謬」(1980年国連事務総長報告)である。
ロシアもNATO諸国も加盟するNPT第6条は、締約国に対し核軍縮への誠実な交渉義務を課しており、また、2021年に発効した核兵器禁止条約は核兵器の全廃を目指し、核兵器を法的に禁止している。「壊滅的人道上の結末」を回避するための唯一の道は、これらの国際社会の合意に基づき、核兵器を廃絶することである。今回のロシアによるベラルーシへの核兵器の配備も、NATO諸国による核兵器の配備等も、これに反するものであり、許されない。
私たちは、ロシアによる戦術核兵器配備に抗議するとともに、「核兵器も戦争もない世界」の実現が国際社会の共通の目標であることを再確認し、全ての国において、核兵器禁止条約及びNPT第6条が目指す核兵器の削減及び廃絶を実現するため、誠実に努力することを求める。