2023年10月7日のイスラム武装組織ハマスによる攻撃を契機に激化したイスラエルとハマスの戦闘行為は未だに収束を見ず、イスラエルによるガザ地区への攻撃によって8000人以上の子どもを含む25,700人の死者と6万人以上の負傷者をうみ、人口の85%に当たる190万人以上が避難生活を余儀なくされる事態となっている。
しかし、イスラエルは「完全勝利収めるまで戦う」として攻撃の手を緩めることはなく、ガザ地区では飢餓や医療不足などにより多数の人びとが人道上の危機に追いやられている。
ハマスによるイスラエルへの攻撃と人質を取った行為は決して許されるものではないが、これに対するイスラエルの報復は、明らかに度を越しているものというほかない。
ところで、南アフリカ共和国政府は、このようなイスラエルの行為はジェノサイドであるとして、国際司法裁判所(ICJ)に提訴しており、本年1月26日にICJはイスラエルに対しジェノサイド防止のためのあらゆる措置を取ることを命じている。
当協会は、南アフリカの行動とICJの暫定措置命令を支持するとともに、直ちにイスラエルに対して、ガザ地区への攻撃を停止するよう求めるものである。
2023年11月5日、イスラエルのエルサレム問題・遺産相のアミハイ・エリヤフ氏がガザ地区への核爆弾の投下も選択肢の一つだと述べた。ネタニヤフ首相はこれを否定したものの、現役の政府閣僚からこのような発言がなされたことは極めて重大であり、強く非難されなければならない。
そもそも、イスラエルはハマスと比較しても圧倒的に優位な軍事力を有していることは明らかであり、自国への侵襲を防ぐために非人道兵器である核兵器による威嚇を行わなければならない理由はない。
他方、ロシアもウクライナ侵攻に際して、核兵器使用の威嚇を行っている。
これらの事態は、核兵器は自国に対する攻撃を抑止するためではなく、相手国への武力の行使をより容易に行うための担保とされていることを意味している。核兵器は極めて危険な役割を果たしているのである。
さらに、スウェーデンとフィンランドは、ロシアのウクライナ侵略や核兵器使用の威嚇に対抗して北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を行い、それが承認されている。ロシアのウクライナ侵略と核使用の威嚇は、核不拡散どころか、ヨーロッパ諸国の分断と対立を深め、人類社会の存亡の危険性を高めているのである。
このように、核兵器で平和を維持するという核抑止論が破綻していることは、世界の現状が如実に物語っているのである。
当協会は、各国の為政者に対し、直ちに核抑止論から脱却し、真摯に核廃絶に取り組むこと、特に、唯一の戦争被爆国である日本の政府はこれを先導して核兵器禁止条約への加盟を含め直ちに取り組むことを求める。
2024年1月29日
日本反核法律家協会会長
大久保 賢一