2023年5月に被爆地広島で開催されたG7広島サミットは、核廃絶の進展が期待されたものの、発表された広島ビジョンは、核抑止論を肯定し、核兵器の非人道性にも触れないなど、被爆地から発信するものとして極めて不十分であり、核廃絶のために必死で活動してきた被爆者をはじめとする市民を裏切るものであった。
かかる広島ビジョンに対し、当協会は、2023年5月29日付で抗議声明を発表し、広島ビジョンの撤回と核廃絶へ向けた真摯な取り組みを行うことを求めた。
広島サミット以降も、ロシアによるウクライナへの侵攻は止むこともなく、イスラエルによるガザ地区への侵攻も開始され、いずれの紛争においても核による威嚇が行われている状況である。さらには、米国下院議員がガザ地区への原爆投下の必要性を主張するという事態も発生している。
かかる核兵器をめぐる危機的な状態を招いたのは、ひとえに核兵器の所持、そして核兵器の使用を前提として成り立つ核抑止論に立った政策を主要各国が採用していることにある。核兵器は、自国に対する攻撃の抑止ではなく、自国の主張を強行的に押し通すための手段として用いられているのである。
各国為政者は、核使用の危機が間近に迫っていることを改めて認識し、核兵器が使用されることによる壊滅的な人道上の結末を何としても回避すべく、あらゆる努力をしなければならない。
2023年12月1日に閉幕した核兵器禁止条約第2回締約国会合では、核抑止論に基づく安全保障政策は「全人類の正当な安全保障上の利益に反」し、「危険で、誤った、受け入れられない安全保障へのアプローチ」であると厳しく批判しており、さらに、今後、安全保障上の懸念に関する協議プロセスにおいて、科学的根拠をもって核抑止による安全保障を克服するための議論が深められることが期待される。
このように、核兵器の廃絶に向けた現実的な議論が進められる核兵器禁止条約(TPNW)の枠組みに、核兵器国は背を向け、核兵器による危険を高めているのである。
2024年6月に開催予定のG7イタリアサミットでは、極めて危険な現在の核をめぐる状況を再確認し、核抑止論による安全保障政策は「危険で、誤った、受け入れられない」ものであることを確認すべきである。
今こそ、危険で誤った理論である核抑止論から脱却し、一刻も早く核廃絶を実現するよう、G7イタリアサミットでは、核軍縮のための真摯な議論が行われることを求める。
2024年5月1日
日本反核法律家協会会長
大久保 賢一