私たちは、唯一の被爆国日本の法律家として、また、一人の地球市民として、「核兵器のない世界」の実現のために、NPT再検討会議に向けて次のとおり提言します。
第1 私たちの課題
1.各国政府と市民社会は、2020年までに、「核兵器のない世界」を実現する。
2.各国政府は、「核兵器全面禁止条約」の協議を、即時、開始する。
3.各国政府は、核兵器の使用および使用の威嚇が、違法であることを再確認する。
4.核兵器国は、速やかに、非核兵器国への核兵器不使用を約束する。
5.各国政府は、非核地帯を拡大する。
第2 提案の理由と根拠
1.核兵器と人類は共存できない。
(1)1945年8月の広島・長崎への原爆投下は、被爆者に「この世の地獄」をもたらしました。その「地獄図絵」の全てを知ることはできません。なぜなら、瞬時に死亡した被爆者は語る機会がありませんでしたし、生存被爆者がその体験を語ることは、自分自身の崩壊に直面せざるを得なかったからです。
(2)しかも、その被害は、被爆64年を経た現在も、継続しているのです。被爆者は、現在も、被爆体験のトラウマとして、また、放射線の影響による「原爆症」として、その心身を痛めつけられているのです。核兵器は人間に耐え難い苦痛を与え続けるのです。
(3)核兵器はいかなる理由があろうとも使用してはならない「最終兵器」なのです。私たちは、このことを思考と行動の原点としなければならないのです。
2.核兵器の使用や威嚇は国際法に違反する
(1)1996年。国際司法裁判所は核兵器の使用や使用の威嚇は「一般的に国際法に違反する。ただし、国家存亡の危機においては、違法とも合法とも判断できない」としました。しかしながら、私たちは、戦闘員と非戦闘員の区別もなく、無差別大量に、しかも残虐に人間を殺傷する核兵器は「絶対的に」国際人道法に違反すると考えています。
(2)1963年。日本の裁判所は、被爆者が日本政府を被告として訴えた裁判において、「米国の原爆投下は、国際法に違反する」と判決しています。
(3)2007年。「原爆投下を裁く国際民衆法廷」は、トルーマン元米国大統領などを戦争犯罪・人道に対する罪で有罪としています。
(4)核兵器の使用が国際法に違反するということは、国際司法裁判所でも、日本の裁判所や「国際民衆法廷」でも、既に確認済みのことなのです。
3.被爆者と反核・平和勢力の戦い
(1)広島・長崎の被爆者は、「この苦しみは自分たちで最後にして欲しい」との思いから、核兵器廃絶運動の先頭に立ってきました。また、原爆被害をできるだけ小さく見せようとしてきた日本政府との「原爆症裁判」も展開してきました。
(2)1954年。ビキニ環礁での米国の水爆実験を契機に、日本での原水爆禁止運動が高揚し、今回の再検討会議には、数千人規模の代表団が600万人規模の署名を携えて、ニューヨークに結集しています。
(3)私たち法律家も、被爆者や市民運動と連帯して、「核兵器のない世界」の実現のために尽力してきました。
4.今、求められていること
(1)今、求められていることは、核兵器の拡散防止に止まらず、核兵器の廃絶です。元々、NPTは、核兵器国の核独占を容認する不平等条約です。国際司法裁判所も、「核軍縮交渉の完結」をNPT6条から導かれる法的な義務であるとしています。
(2)すでに、「モデル核兵器条約」が提案され、国連総会においては、核兵器条約の実現に向けての早期の交渉開始が決議されています。
(3)私たちは、核兵器の必要性を認める「核抑止論」は「核兵器のない世界」の妨害物であると考えます。
(4)「核抑止論」を乗り越え、相互の信頼を醸成し、非核地帯を拡大し、核兵器の使用禁止にとどまらす、核兵器全面禁止を実現しようではありませんか。